底本
Aristophanes. Aristophanis Comoediae, Vol. 1. Hall, F. W. and Geldart, William M., editors. Oxford: Clarendon Press, 1906.
原文データ出典
Perseus Digital Library · CC BY-SA 4.0
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要旨
本作は、息子の馬道楽による多額の借金に苦しむ父親が、詭弁術を用いて返済を免れようと画策する喜劇です。舞台はアテナイで、田舎出身の父親ストレプシアデスは、哲学者ソクラテスが主宰する「思考所(ポントニステリオン)」を訪れ、借金を逃れるための弁論術を学ぼうとします。最初は自ら入門したストレプシアデスでしたが、奇妙な科学的探求や新興の神々である「雲」の教えに困惑し、ついには物覚えの悪さから破門されてしまいます。代わりに息子フェイディッピデスを説得して入学させ、「劣った論理(ロゴス)」の教育を学ばせることに成功します。息子が身につけた詭弁により一度は債権者たちを撃退して歓喜する父親でしたが、その息子から暴力を振るわれ、さらに母親を殴ることさえも詭弁で正当化されるに至り、自身の過ちに気づきます。最後は伝統的な信仰をないがしろにしたことを後悔し、ソクラテスの「思考所」を焼き討ちにするという破滅的な結末を迎えます。
目次
19 チャンク
引用方式:line
- §1-82
ストプシアデスの不眠と息子の借金への苦悩
借金の山に苦しむ田舎者出身の父親ストプシアデスは、馬道楽の息子ペイディッピデスのせいで眠れない夜を過ごし、かつての都市貴族の妻との結婚と息子の命名をめぐる争いを回想したあと、借金から逃れるための解決策を思いついて寝ている息子を起こそうとする。
- §82b-163
思考所への勧誘とストプシアデスの入門
ストレプシアデスは借金返済のために息子にソクラテスの「思考所」への入学を勧めるが拒絶され、自ら入学を決意して門を叩く。そこで門弟からソクラテスたちの奇妙な科学的・思索的研究の一端を聞かされる。
- §164-243
門弟の語る研究と吊り籠のソクラテスへの懇願
思考所に入り込んだストレプシアデスは、門弟からソクラテスの奇妙な科学的探求や詐術のような逸話を聞かされ、その後、空中から思索に耽るソクラテス本人と対面して、自分の借金問題を解決するために弟子入りを懇願する。
- §244-326c
雲の女神たちへの祈禱と合唱隊の降臨
ストプシアデスは借金返済の手段として「不義の弁論」を学ぶべく、ソクラテスの案内で雲の女神たち(ネペレー)への入門儀式と祈祷に臨み、やがて上空から降臨する女神たちの歌声を聞き、その姿を目にしようとする。
- §327-384
雲の女神たちの本性と旋風による気象の講義
ソクラテスはストレプシアデスに、雲の女神たちがソフィストや詩人たちを養っていること、そして彼女たちが人々の本性に合わせて自在に姿を変えることを説明する。さらにソクラテスは、雨や雷を降らせるのはゼウスではなく、雲自身と天上の「旋風(ディノス)」という物理的原理であることを教える。
- §385-445
雷鳴の原理の講義と弟子入りを誓う老人
ソクラテスはストレイプシアデスに対し、雲の衝突による雷の発生を人間の胃腸の膨満と排気に例えて説明し、さらに風の圧搾による稲妻の科学的メカニズムを解説してゼウスの存在を否定する。これに心服したストレイプシアデスは、借金逃れのための弁論術を身につけるべく、あらゆる試練を耐え抜いてソクラテスの弟子となる決意を固める。
- §446-538
ストレプシアデスの入門試問と詩人の観客への口上
ストレプシアデスがどのような罵倒も辞さない覚悟を示すと、ソクラテスは彼の資質テストを開始し、ストレプシアデスの突飛な誤解が連発するなか、最後は彼を思想研究所へ送り出す。その後、劇の詩人が観客に対して自己の喜劇の正当な価値とこれまでの歩み、作品の品格について直接語りかける(パラバシス)。
- §539-620
喜劇の品位とクレオン批判ならびに月の抗議
アリストパネスが自身の喜劇の独創性と上品さを誇り、ライバル詩人たちの剽窃と陳腐さを難じる。続いて合唱(雲)が神々への祈りを捧げ、アテナイ市民のクレオン選出という愚策を批判するとともに、月からアテナイ市民の暦の乱れに対する不満を伝える。
- §621-698
月の警告と韻律や名詞の性をめぐる授業
月の暦を正しく守らないアテナイ市民に雲のコーラスが忠告を与えた後、ソクラテスはストレプシアデスを屋外に連れ出して韻律や名詞の文法的な性について教育を試みるが、二人の認識は絶望的に噛み合わず滑稽な対話が展開される。
- §698b-786
ストレプシアデスの奇策とソクラテスによる破門
トコジラミの襲撃に苦しむストレプシアデスは、ソクラテスから促されて債務を踏み倒す奇抜な方法を次々に提案する。しかし、最終的には極端な解決策を提示し、さらに以前学んだことを忘れてしまったため、呆れたソクラテスから破門を言い渡される。
- §787-868b
息子フェイディッピデスの説得と学校への連行
ソクラテスから見限られたストレプシアデスは、雲の女神たちの助言に従い、息子のフェイディッピデスを代わりに説得して学校へ送ることにし、伝統的な信仰を否定して「渦」の支配を信じ込ませ、ソクラテスのもとへ連れて行く。
- §869-966
優れた論理と劣った論理の登場と教育論争
ストレプシアデスが息子の教育をソクラテスに懇願した後、「優れた論理」と「劣った論理」が擬人化されて登場し、どちらがフェイディッピデスを教育するにふさわしいかを巡って激しい口論を繰り広げ、旧教育と新教育の対決が始まる。
- §967-1044
優れた論理が語る古き良き教育と若者の堕落
優れた論理は、自らが提唱する古き良きアテナイの厳格かつ健康的な教育制度を具体的に説明し、今の若者の堕落を嘆く。これに対して歌隊は称賛を送り、劣った論理に対して同様に強力な反論を展開するよう促す。
- §1045-1117
劣った論理の勝利と息子の入門
温水浴、広場での弁論、そして「慎み」の価値をめぐって「優れた論理」と「劣った論理」が激しく対立するが、「劣った論理」は社会の指導層や劇場の観客に「尻軽」が圧倒的に多い事実を突きつけて「優れた論理」を完敗させる。敗北を認めて退場した「優れた論理」の後、父親ストレプシアデスは息子を「劣った論理」の教育に託し、コーラスは父親に破滅を警告しつつ、審判たちへの訴えを始める。
- §1118-1196
詭弁を修得したフェイディッピデスとの再会
コーラスが審判たちへの脅しと利益を約束した後、ストレプシアデスは借金の期日を恐れて息子フェイディッピデスを引き取りにいく。息子は詭弁術を身につけており、その期日の法律をめぐる解釈で父親を驚かせる。
- §1197-1278
詭弁による債権者パシアスとアミュニアスの撃退
ストレプシアデスは、返済を迫る債権者パシアスに対し、ソクラテス流の新しい弁論術と性別文法を持ち出して返済を拒否し、追い払う。さらに馬車から転落して怪我をしたもう一人の債権者アミュニアスが現れるが、同様にからかって退ける。
- §1278b-1361
アミュニアス追放と父を殴るフェイディッピデス
ストレプシアデスは高利貸しのアミュニアスを自然科学の屁理屈で追い払うが、直後に息子フェイディッピデスから暴力を振るわれ、父親を殴る行為の正当性をめぐる議論が始まる。
- §1362-1431
父を殴る正当性を論じるフェイディッピデス
ストレプシアデスは、饗宴での文学的な対立から始まった息子のフェイディッピデスとの親子喧嘩とその暴力を振り返る。フェイディッピデスは、詭弁を用いて父親を懲らしめることの正当性を弁論し、動物の比較などを交えて古い習慣を打破しようとする。
- §1432-1511
ストレプシアデスによる思考所の焼き討ち
フェイディッピデスが母親さえも殴る正当性を主張するに及び、ストレプシアデスは自らの過ちを悟る。彼はヘルメス神の助言に従い、従者を連れてソクラテスの「思考所」を焼き討ちにする。
