底本
Lucian, Vol. 2. Harmon, Austin Morris, editor. London: William Heinemann, Ltd.; Cambridge, MA: Harvard University Press, 1915.
原文データ出典
Perseus Digital Library · CC BY-SA 4.0
Humanitext がクローン・再構成し、継続的に更新しています。
要旨
本作は、神々の存在と宇宙への摂理(プロノイア)を巡る、天上と地上の双方で繰り広げられる騒動を描いた風刺的な対話篇です。物語は、エピクロス派の哲学者ダミスが神々の存在を否定し、ストア派のティモクレスがそれを擁護する論争を始めたことで、最高神ゼウスが神々の存亡の危機を抱くところから始まります。ゼウスは天上の神々を緊急招集しますが、席順を巡る混乱や、批判的な神モモスによる「神々が不条理を放置してきた自業自得だ」という手厳しい非難に見舞われます。神々は効果的な対策を講じられず、結局は天の門を開けてアテナイで展開される地上の論争を固唾をのんで覗き見ることになります。地上では、宇宙の秩序や詩人の言葉を盾にするティモクレスに対し、ダミスが人間世界の不正や神話の不合理を挙げてことごとく論破していき、最終的にティモクレスは激怒して暴力に訴え出ます。神々は天からそれを傍観しながら、自らの存在意義が人間の不確かな議論に委ねられている現実を前に、皮肉混じりの諦念を抱きつつ対話を終えます。
目次
14 チャンク
引用方式:section
- §1-4
ゼウスの苦悩と神々の存亡をめぐる論争
悩ましげなゼウスに対し、ヘラたちがその理由を問いただす。ゼウスは、ストア派とエピクロス派の哲学者による神意をめぐる論争が勃発し、神々の存亡が議論の行方に懸かっているという危機的状況を明かす。
- §5-7
神々の集会の招集と座席の序列の決定
神々の集会を開くかどうかについてヘラやアテアたちと相談したゼウスは、最終的に全員を招集することにし、ヘルメスに布告を命じる。集まってきた神々の席順について、ゼウスは芸術的な美しさよりも素材としての金の価値を優先して座らせるよう指示する。
- §8-13
神々の席順をめぐる紛争と民会の開会
財産評価額に基づく神々の席順決定において、金製のバルバロイの神々がギリシアの美しい神々や古参の神々を押しのけて最前列を占め、ロドスの巨像やリシッポスの彫像を巡って混乱が生じる中、ゼウスは一時的に混席を命じ、多言語の神々が集まる中で民会が騒がしく始まる。
- §14-16
ゼウスの演説とアテナイでの哲学者たちの論争の報告
ゼウスは神々の前での演説に緊張し、ヘルメスの助言によりデモステネスの演説を借用して話し始める。ゼウスは昨日アテナイを散歩していた際、神の存在をめぐって激論を交わす哲学者たちに遭遇した出来事を語り始める。
- §17-19
ゼウスの危機意識とモモスによる神々への批判
ゼウスは前日に目撃したダミスとティモクレスの議論の顛末と神々が直面している危機を語り、対策を求めるが、神々は沈黙する。そこで率直な発言を許されたモモスが、神々への不信の原因は人間世界の不正や不条理を放置している神々自身にあると厳しく指摘する。
- §20-24
モモスによる神々の怠慢批判とポセイドンの提案
モモスは人間界の不条理、不条理な神託、神々の醜態を指摘し、人間が神の配慮を疑うのは自業自得であり、ゼウスも正義のために自ら働いてこなかったと酷評する。これに対してゼウスは取り合わず、ポセイドンは対決の前にダミスを雷などで抹殺することを提案する。
- §25-27
ゼウスによる抹殺案の却下とアポロンの弁論分析
ゼウスは、ポセイドンが提案した論敵ダミスの物理的抹殺案を不戦勝の不名誉だとして却下する。続いてアポロンが発言し、神々の擁護者であるティモクレスが学問的に優れていながらも、大衆の前での説得力や表現力に重大な欠陥を抱えている現状を分析する。
- §28-31
アポロンの提案と難解な神託に対するモモスの嘲笑
アポロンはティモクレスの弁論を補佐するために代弁者を立てる提案をしますが、モモスに一蹴されます。さらにモモスに予言の能力を挑発されたアポロンは、即興で非常に難解な神託を詠み上げ、モモスはそれを神々と信者を愚弄するものだと解釈して大笑いします。
- §32-34
ヘラクレスの武力行使案と論争を覗き見る神々
ヘラクレスがストア派の回廊を破壊して論敵を圧殺することを提案するがゼウスに制止され、その後、地上から急報を持ってきたエルマゴラス(市場のヘルメス像)の知らせを受けて、神々は天の門を開けて下界の哲学者たちの論争を覗き見る。
- §35-38
ティモクレスとダミスによる神の摂理をめぐる論争
無神論者ダミスと哲学者ティモクレスによる、神々の存在と摂理(配慮)をめぐる本格的な論争が始まる。ティモクレスが宇宙の規則正しい運行や動植物の構造を配慮の証拠として挙げるのに対し、ダミスはそれが最初の始動による必然性にすぎないと反論する。
- §39-41
詩人と劇作家の証言をめぐるティモクレスとダミスの応酬
ティモクレスは神々の配慮の証拠として詩人ホメロスと劇作家エウリピデスを挙げるが、ダミスは神話の虚構性や演劇の舞台装置を指摘してそれを退ける。
- §42-44
諸民族の奇妙な信仰と神々の危機を憂うゼウス
ダミスは世界各地の奇妙で多様な神事や不確かな神託を列挙して、神々を信じることの愚かしさを主張する。天上ではゼウスとモモスがこれを注視し、神々の危機の到来と弁明の不可能性について話し合っている。
- §45-48
雷と航海の比喩による神の摂理の論証とダミスの反論
ティモクレスは雷や航海の比喩を用いて神々の実在と宇宙の摂理を証明しようとするが、ダミスはクレタのゼウスの墓の伝説や現実の不条理な航海の様子(不公平な待遇や悪人の繁栄)を引き合いに出して反論し、神々による統治を否定する。
- §49-53
ダミスの論破とティモクレスの激怒による議論の結末
ダミスはティモクレスの船の例えを逆手にとって神々による統治の破綻を暴き、その後の「神聖な錨」とされる祭壇の議論をも一蹴する。敗北したティモクレスは激怒してダミスを罵倒し暴力を振るおうとする一方、ゼウスとヘルメスはそれを傍観しながら人間たちの動向を語り合う。
