底本
Platonis Opera, Tomus I: Tetralogia I-II. Burnet, John, 1863-1928, editor. Oxford: Clarendon Press, 1905.
原文データ出典
Perseus Digital Library · CC BY-SA (Perseus の利用条件による)
元ファイル: urn:cts:greekLit:tlg0059.tlg008.perseus-grc2
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翻訳と校閲
翻訳:Gemini 3.5 Flash(2026-05-22 公開)
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最終更新:2026-10-10・変更履歴の一覧
要旨
本作は、真の「政治家」およびその有する支配の技術(王者の術)とは何かを追究する哲学対話篇である。エレアから来た客人と若きソクラテスを中心とする対話は、すべての知識を二分する厳密な定義づけの手法から始まる。中盤では、宇宙の逆回転をめぐる壮大な神話が語られ、かつての神的な統治者と現代の人間の支配者との違いが浮き彫りにされる。さらに「織物術」という範例を用いて、知恵なき法律の限界や、知識に基づく真の国制のあり方が追究されていく。最終的に、政治の術とは個別的な技術を統括する決定の術であり、相反する性質(勇敢と節制)を持つ市民たちを調和的に「織り合わせる」技術であると定義され、対話は締めくくられる。
目次
34 チャンク
引用方式:section
- §257-258
対話の開始と知識の実践的認知的一分類
ソクラテス、テオドロス、客人が対話を始め、テアイテトスに代わって若きソクラテスが客人の対話相手となる。客人は「政治家」の定義に向けて、すべての知識を「実践的」なものと「認知的」なものに大別することを提案する。
- §259-260
認知的知識の区分と王権の自己命令性
客人は、王や政治家、家政管理者などの支配知識が一つの「認知的知識」に帰属すること、そして認知的知識はさらに「判定」と「命令」に、さらに命令は他者の命令を二次的に伝えるものと「自己命令」に区分されることを論じ、王を自己命令的知識に位置づける。
- §261-262
群れ飼育の術の定義と正しい分割の方法
客人と若きソクラテスは、支配の知識を「動物の群れ飼育」のための命令的知識として規定する。続いて客人は、全体から人間だけを拙速に切り離す若きソクラテスの分割手法を戒め、部分が常に固有の形相を備えているべきことをギリシア人と野蛮人の区分などの例を挙げて説明する。
- §263-264
形相と部分の区別と共同飼育の再分割
ソクラテスから形相と部分の違いについて問われた客人は、その詳細な検討を後日に譲りつつ、部分が常に形相であるとは限らないという原則を確認する。その後、以前の「人間と野獣」という不適切な分割を反省し、共同飼育を水生と陸生、陸生をさらに有翼と歩行へと、段階的に正しく二分していく。
- §265
二つの道と陸生動物の角および交配による分割
客人は、陸生動物の飼育を分割するにあたり、不均等だが速い道と、均等に二分するが遠回りな道の二つを提示し、若きソクラテスの希望で両方を順に辿ることにする。まず角の有無、次いで交配の性質(混種か純種か)によって政治の対象たる群れを絞り込んでいく。
- §266-267
二足歩行の幾何学的定義と人間飼育術の総括
客人は幾何学的な比喩を用いて人間の二足歩行を定義し、知的知識から出発した分割プロセスを総括して政治の技術(人間管理の技術)を規定する。しかし、この規定が完全であるか、他の競争的な養育者たちと政治家を区別できるかという疑問を呈し始める。
- §268-269
人間飼育の競合者たちと宇宙逆回転の神話
客人は、商人や医師など多くの者が人間の育成管理の権限を争うため、現在の定義では政治家を独自に規定できていないと指摘し、真の支配者を明らかにするために宇宙の逆回転に関する壮大な神話を語り始める。
- §270
宇宙の自律的逆回転と生物の若返り
宇宙が自己回転や複数の神による逆回転を永遠に続けることはなく、適切な時期に神に手放されて自律的に逆行すること、そしてこの宇宙の逆回転によって地上に住む生命、特に人間には、年齢が若返って消滅するという急激な逆行変化が生じたことを語る。
- §271-272
クロノスの時代における地生の生活と幸福
お客は、クロノス統治期における人間や動物の誕生(地生え)と、自給自足的で平和な生活の様子を詳しく描写する。さらに、その時代と現代のどちらが幸福かという問いを投げかけ、宇宙の支配権が神から離れ運命の逆回転が始まる瞬間を語る。
- §273
宇宙の秩序回復と通常の生成変化への回帰
宇宙の舵手が手を放したことで生じた混乱の後、神が再び操縦席に戻り宇宙を整えて不老不死にする。また、宇宙が再び現在と同じ方向へ回転し始めたことで、老化現象が通常通りに戻る。
- §274-275
技術の獲得と神的な牧者の定義の反省
宇宙の反転に伴う生物の自律的発生と、人間が神々の配慮を失った後の困難と技術の獲得が語られる。そして、以前の議論で国家の支配者を「神的な牧者」と同一視した定義の誤りを振り返る。
- §276
群れの配慮と自発的支配による政治家の定義
異議申し立てを回避するための正しい定義と分割を論じる。これまでの「群れ養育」を「群れ管理(配慮)」に修正し、神的な牧者と人間の世話人、さらには強制的(僭主)と自発的(王・政治家)な支配に分割することで、政治家の定義を正しく導き出す。
- §277-278
認識における範例の役割と文字学習の比喩
客人は、前回の王の定義が外的な輪郭のみに留まり生々しさを欠いていると指摘し、複雑な事物の認識のために「範例(パラデイグマ)」の手続きが必要であることを、文字を学ぶ子供の例から説明する。
- §279-280
範例としての織物術の導入と衣服製作の分類
客人は政治技術の範例として「織物術」を選び、衣服およびその関連技術の周到な分類と除外のプロセスを通じて、織物術を他の親縁技術から切り離し、その独自の性質を定義しようと試みる。
- §281-282
原因と共同原因の区分による織物術の限定
客人は織物術を明確に定義するために、衣服に関わる多様な周辺技術(毛梳きや縮絨、道具製作など)を切り離す必要性を説き、技術を道具を提供する「共同原因」と製品を作る「直接原因」に大別した上で、結合術と分割術の観点から加工プロセスの細分化を進める。
- §283
織物術の定義の完成と二種類の測定術の提示
客人と若きソクラテスは、横糸の定義と織物術の定義を完成させた後、なぜ一足飛びに結論に至らず議論を長引かせたのかという疑問に答え、その前提として「測定術」には相対的な大きさを比べるものと、適度(基準)を測るものの二種類があることを提示する。
- §284
適度の実在と二つの測定術の区別
客人は、事物の「適度」に対する絶対的な測定基準が認められない限り、政治技術や織物術を含むあらゆる技術が存立不可能になることを警告する。そして、測定術を相対的な測定と適度に基づく絶対的な測定の二つに分割する。
- §285-286
対話術の向上という探究の真の目的
客人は、すべての事物が測定術に関わっているという主張の真意を明らかにし、織物技術や政治技術の分析が、それ自体のためではなく、あらゆる事物における対話術(ダイヤレクティケー)の向上を目指して行われているのだと説明する。
- §287
議論の長さの基準と間接的・直接的原因の区分
客人は議論の長さについて、聞き手をより弁証術に習熟させるかどうかを基準にすべきだと述べ、国家における王を特定するための分割を再開し、間接的な原因(道具など)と直接的な原因の区分を提示し始める。
- §288-289
共同原因となる財産の分類と奉仕者の検討
客人と若きソクラテスは、国家において共同原因(間接的原因)となる様々な財産(所有物)を、「器」「乗り物」「防護物」「遊び道具」「素材(原初的な財産)」「栄養」の六つ(前回の「道具」を加えて計七つ)の属に分類する。続いて、国家における奉仕者の分類へと移行し、奴隷を最初の検討対象とする。
- §290
補助的奉仕者の除外と予言者や神官の役割
客人と若きソクラテスは、商業に従事する自由人や、書記や伝令といった行政の補助的奉仕者たちを検討するが、彼らは真の政治術の競争相手ではないと結論づける。続いて、国家支配の正当性を競う可能性のある予言者や神官たちの、社会的・宗教的な高い地位と役割が検討される。
- §291-292
従来の国制分類の検討と正しい国制の基準となる知識
客人は、真の政治家と混同されやすい偽りの支配者(ソフィスト)を排除するため、従来の五つの国制分類を整理した上で、正しい国制を定義する真の基準は支配者の数や財産、自発性、法律の有無ではなく「知識」であると主張する。
- §293
医学の類比による真の国制と知識の規準
客人と若きソクラテスは、医学の類比を用いて、真の国制を定義づける唯一の基準は支配者の人数や法律の有無ではなく「知識」であることを明らかにし、秩序ある法治国制も真の国制の模倣にすぎないと論じる。
- §294-295
法律の硬直性と限界および賢明な支配者の優位
客人は、常に変化し一律ではない人間社会において、法律が単純で固定的な規則しか定められない限界を指摘し、知恵ある王による支配の優位性と、法律が大雑把な規則としてしか機能しない理由を医師の例えを用いて説明する。
- §296
法律を超越した強制と真の支配の正当性
客人は、医師の例え話を発展させ、国家の支配者が法律に反してでも支配を受ける人々に有益なことを強制する場合、それは技術的に「誤り」や「不正」とは呼べず、真に賢い支配者の有益な行為こそが最善の支配の基準であると論じる。
- §297-298
第二善の国制と専門技術を法で縛る思考実験
客人は、真の知識を持った統治者が行う最善の統治を、航海士や医師の比喩を用いて説明する。そして、真の知識が欠けた場合の第二善の策として、人々が法律に一切逆らわないと決めて専門家の力を制限する極端な思考実験を提起する。
- §299
法の厳格な拘束による技術の破壊と生活の崩壊
客人は、支配者たちの任期終了後の法廷審査、および法律(書かれた規定)に反する知的探求を厳罰に処する法律の導入という「奇妙な状況」を提示し、それがすべての技術を滅ぼし人間生活を完全に不可能なものにすると論じる。
- §300-301
法の遵守を次善とする現実の国制の分類
法律を無視して無知のまま統治することの重大な害悪を指摘した上で、厳格な法遵守が「次善の策」であることを確認し、これを基準にアリストクラティア(貴族政)からテュランノス(僭主政)に至る現実の国制を分類する。
- §302-303
六つの国制の優劣と金の精錬の比喩
客人は六つの正しくない国制を適法と違法によって二分し、その中での優劣関係を提示するとともに、偽りの政治家たちを排除し、真の政治的技術を金に見立てて精錬する比喩を導入する。
- §304
従属的な技術と主導的な政治の術の区別
客人は音楽などの例を挙げ、特定の行動手段(説得や戦争)を実行する個別的な技術と、それをいつどのように行うべきかを判断する主導的な技術を区別し、後者の「決定する術」こそが支配的な政治の術(王者の術)であることを明らかにする。
- §305-306
政治の術の統括機能と勇気と節制の対立
客人は、政治の術と他の従属的な技術(将軍の術や裁判官の術)との境界を画定し、真の政治の術は自ら実践するのではなく、実践する技術を指導し統合するものであることを示す。続いて、徳の諸部分(例えば「勇気」と「節制」)が、一般に考えられているような調和関係にあるのではなく、ある面では対立・不和の関係にあるという驚くべきテーゼを導入する。
- §307-308
勇気と節制の過度の弊害と政治の術による選別
客人は、穏健な性質(節制)と活動的な性質(勇気)が好機を逃すと極端な悪徳に転じること、そしてこれらの不和が国家の破滅(奴隷化)を招くことを説明する。その上で、真の政治の術は、他の組立技術と同様に、教育や試験を通じて適切な要素を選別し、国家を織り合わせる監督者であることを示す。
- §309
教育による選別と魂を結ぶ神的な絆
王の術が、教育を通じて適格な市民の魂を結合(縦糸の勇敢さと横糸の節制を調和)させ、国家にふさわしくない悪人を排除・隷属させるプロセスを論じる。また、魂の不滅なる神的部分を結びつける「正義と善に関する確固たる真の意見」の重要性が説明される。
- §310-311
人間的な絆による織り合わせと王の技術の完成
客人は、神的な絆を前提として、婚姻などを通じた人間的な絆によって勇敢な本性と節制ある本性をいかに織り合わせるべきかを論じ、これら両者が調和した統治こそが「王の技術」の完成であると結論づけて対話を終える。
