底本
Galen. Claudii Galeni Opera Omnia, Volume 5. Kühn, Karl Gottlob, editor. Leipzig: Knobloch, 1823.
原文データ出典
A Digital Corpus for Graeco-Arabic Studies · CC BY-SA 4.0
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要旨
本作は、古代ローマの医師ガレノスが、人体における脈拍の機能や有用性を、呼吸との精緻な比較を通じて探求した医学・生理学の著作です。著者は、動脈の結紮実験や解剖学的観察を駆使し、呼吸と脈拍がともに体内の「生まれつきの熱」を維持し、拡張によって冷却を行い、収縮によって老廃物を排出するという共通の役割を持つことを示します。さらに、動脈の運動は単に受動的なものではなく、心臓の能動的な収縮・拡張の力が伝播したものであると主張し、先行する医学者たちの誤説を鋭く反駁します。動脈内の血液や精気(プネウマ)の移動メカニズムや、拡張・収縮の双方が能動的な活動であることの論証を経て、最終的に脈拍と呼吸の類似点と相違点が明快に整理されます。本書は、当時の医学における循環生理学の基礎を築くための極めて論理的な探究の書です。
目次
10 チャンク
引用方式:chapter
- §1
呼吸と脈拍の機能の異同と動脈結紮の観察
ガレノスは呼吸と脈拍の有用性の同一性について検討を始める。動脈の結紮が神経の結紮のような即時の機能喪失を伴わない事実を提示し、両者の機能が共通であるという従来の通説に疑問を呈する。
- §2#1
頸動脈結縛と網状血管網による精神プネウマの精製
呼吸の二重の有用性を基準として、頸動脈を結縛しても動物が死なない理由を「網状血管網(奇網)」による精神プネウマの蓄積と精製から説明し、実験による実証を示す。
- §2#2
生来の熱の源泉としての心臓と他部位の差異
著者(ガレノス)は、生まれつきの熱の源泉である心臓と、その熱によって温められる他の部位との違いを論じ、心臓が熱の遮断に対して最も脆弱である理由を説明する。
- §3
血管結紮と熱の伝達および脈の冷却と排出機能
著者は、心臓からの熱が動脈だけでなく静脈を通じても諸部位に送られることを、血管結紮の臨床例や部位の緊縛実験によって証明する。また、脈拍が全身の熱を維持する役割を持ち、呼吸と同様に拡張による冷却と収縮による老廃物の排出を行うことを論じる。
- §4
アルキゲネス説の反駁と動脈の拡張・収縮の機序
著者は、動脈が収縮時に引き込み拡張時に空になるというアルキゲネスらの説に反駁し、呼吸器官の運動や休止時間のアナロジーから、拡張時に引き込み収縮時に送り出すのが正しいと主張する。さらに、心臓の能動的な収縮・拡張の力が動脈壁を通じて全身の動脈に伝播し、心臓と同様の運動を生じさせていることを説明する。
- §5
血管吻合を通じた物質移動と動脈の能動的拡張
著者は動脈の壁にある孔や静脈との吻合を通じた精気と血液の移動メカニズムを説明し、動脈が心臓以外からもあらゆる方向に物質を出し入れしていることを示す。また、動脈内に血液が存在することから、動脈の拡張は心臓からの流入による受動的なものではなく、能動的な運動であると主張する。
- §6
呼吸との比較による動脈の能動的活動の論証
ガレノスは動脈の拡張と収縮が能動的な活動であるか否かを、呼吸との類似性や死後の血管の状態、危機の際の脈拍の強さなどの観察から論じ、拡張もまた能動的な活動であることを論証する。
- §7#1
能動的活動としての動脈の収縮の論証
著者は、脈拍における収縮が単なる活動の弛緩ではなく、呼吸における吹き出し(強い呼気)に対応する能動的な活動であることを論じ、睡眠中の変化や年齢、環境の影響などの証拠を挙げる。
- §7#2
動脈収縮を受動的崩壊とする説への反論
著者は、動脈の収縮が受動的につぶれる現象(膜の柔らかさによる)であるという説に反論し、植物などの物理的特性の比較を通じて、硬い組織と柔らかい組織が運動と復帰において示す異なる性質を明らかにする。
- §8
脈拍の有用性の総括と呼吸との比較
著者は脈拍の有用性に関するこれまでの議論を要約し、呼吸と脈拍の類似点と相違点を整理する。そして、この基礎を理解することで、従来の医学説の妥当性を評価し両方の活動を詳細に究明することが容易になると結論づける。
