底本
Platonis Opera, Tomus II: Tetralogia III-IV. Burnet, John, editor. Oxford: Clarendon Press, 1910.
原文データ出典
Perseus Digital Library · CC BY-SA (Perseus の利用条件による)
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要旨
本作は、悲劇作家アガトンの祝宴に集まったアテナイの知識人たちが、愛の神エロスを順に讃美する対話篇です。出席者たちは、自己犠牲の美徳、天上の愛と世俗の愛、宇宙の調和、そして失われた半身を求める球体人間の神話など、多様な観点から愛を論じます。最後に語り手となったソクラテスは、かつて巫女ディオティマから授かった教えを引き、愛とは単なる欲求ではなく、中間者として「美そのもの」のイデアへと魂を上昇させる導き手であることを明かします。議論の終盤、泥酔した青年政治家アルキビアデスが乱入し、ソクラテスの卓越した魂と超人のごとき魅力を暴露・讃美します。宴は深夜の混乱を経て夜明けを迎え、ソクラテスが喜劇と悲劇を創る技術の同一性について語るなかで、静かに幕を閉じます。
目次
36 チャンク
引用方式:section
- §172-173
アポロドロスによるアガトンの饗宴の導入
アポロドロスは知人のグラウコンに呼び止められ、かつてアガトンの家で行われたソクラテスたちの宴会について尋ねられる。アポロドロスは、自分がその場にいなかったこと、そしてアリストデモスから聞いた話を語り始める準備を整える。
- §174
アガトン邸への途上とソクラテスの思索
アリストデモスは身だしなみを整えたソクラテスと出会い、彼に誘われてアガトンの夕食会に招かれざる客として同行することになる。道中でソクラテスは思索に没頭して遅れ、アリストデモスが一人で先にアガトンの家に到着し温かく迎えられる。
- §175
ソクラテスの到着とアガトンとの知恵の応酬
アリストデモスはアガトンの夕食会に迎えられ、遅れて到着したソクラテスも隣の席につく。アガトンはソクラテスの知恵にあやかろうとするが、ソクラテスは知恵を器の間を流れる水に例えて謙遜しつつ応じる。
- §176
節度ある飲酒の合意と対話の提案
食事が終わった後、一同は昨日の二日酔いを考慮して過度な飲酒を避けることで合意し、エリュクシマコスの提案により、笛吹き女を帰して対話を楽しむことに決める。
- §177-178
エロス賛辞の提案と最古の神とするパイドロスの演説
エリュクシマコスがエロスを賛美するスピーチの催しを一同に提案して賛同を得、最初の話者となったパイドロスが、エロスが神々の中で最古の存在であることと、恋人たちの間に生じる羞恥心と名誉心が国や個人に偉大な働きを促すことを論じる。
- §179-180
愛による自己犠牲と二種類のエロス
パイドロスは、エロスがもたらす勇気と自己犠牲の美徳を、アルケスティスやアキレウスの神話を用いて論じる。続いてパウサニアスが、エロスには「天上」と「民衆(俗)」の二つの種類があることを指摘する。
- §181-182
二つのエロスと諸ポリスの少年愛の慣習
パウサニアスは、アプロディテの二面性に対応してエロスにも「世俗的なもの」と「天上のもの」の区別があることを提示し、それに基づいてそれぞれの特徴と、ギリシア各都市における少年愛をめぐる法や慣習の違いを説明する。
- §183
アテナイの慣習の矛盾と高潔な愛の条件
パウサニアスは、アテナイにおいて愛者の熱狂的な行動が容認され称賛される一方で、少年たちへの監視や周囲からの非難が存在するという矛盾を指摘し、愛そのものは善悪を分かたず、高潔な魂を美しく愛することこそが永続的で善いものであると論じる。
- §184-185
パウサニアスの演説の結びとアリストパネスのしゃっくり
パウサニアスは、徳の獲得を伴う少年愛のみが美しく永続的であることを述べて演説を終える。続いて話す予定だったアリストパネスがしゃっくりにより話せなくなったため、医師エリュクシマコスが話す順番を交代することになり、治療法を提案する。
- §186-187
エリュクシマコスによる自然と調和の愛の演説
エリュクシマコスは、愛(エロース)が人間の魂だけでなく身体や宇宙全体に存在すると主張し、医学や音楽を例に挙げて相反するものの調和をもたらす愛の働きを説明する。
- §188-189
アリストパネスの演説と原初の人間の神話
エリュクシマコスは宇宙や人間のあらゆる事象における調和的な愛の必要性を説いて演説を終え、アリストパネスがしゃっくりを止めて独自の愛に関する演説を開始し、かつて人間には三つの性別(男、女、両性)が存在したという神話を語り始める。
- §190
球形の人間の傲慢とゼウスによる両断
アリストパネスは、かつての人類が球体であり、恐るべき力を持って神々に挑んだため、ゼウスが彼らを半分に切り分けて弱体化させたという神話を語る。
- §191
失われた半身の修復と愛の起源
アポロンによる人間の身体修復とゼウスによる生殖器の配置変更が語られ、失われた「半身」を求める愛(エロス)の起源と、それに基づく人間の異なる性的指向が説明される。
- §192
男同士の愛とヘパイストスによる合一の願望
男から切り分けられた男たちが、本性上最も勇敢であり、成長して政治に進出し、互いに惹かれ合う様子を説明し、恋人たちが求める究極の結合(二つから一つになること)をヘパイストスの言葉を借りて表現する。
- §193-194
アリストパネスの結語とソクラテスとアガトンの対話
アリストパネスが神への敬虔さと愛(エロス)の重要性を説いて演説を終えた後、一座はアガトンの演説への移行を前に、ソクラテスとアガトンの間で大衆と賢者への恥の意識をめぐる問答が交わされる。
- §195
アガトンの演説の開始とエロスの若さと美しさ
アガトンは演説を始め、これまでの話者がエロスの与える恩恵ばかりを語っていたことを批判し、讃美の正しい順序を提示する。その上で、エロス自身が神々の中で最も若く、美しく、かつ繊細な神であることを論証し始める。
- §196
アガトンによるエロスの繊細さと四大徳の論証
アガトンはエロスが最も繊細でしなやかな容姿を持ち、美しく香り高い場所に住むことを語る。さらに、エロスが正義、節制、勇気、知恵(詩作の技術)という主要な美徳をどのように完璧に備えているかを論証する。
- §197-198
アガトンの演説の結びとソクラテスの批評
アガトンはエロスが万物の創造や諸神の技術の源であることを称えて演説を終え、ソクラテスはその美辞麗句に圧倒されつつも、真実を語ることと美しく飾ることの違いを指摘する。
- §199
真実を語る許可とソクラテスによるアガトンへの問答
アガトンの演説を称賛しつつも、自身の無知を告白したソクラテスは、真実のみを語る独自のスタイルで話を始める許可をパイドロスから得る。そしてアガトンに対し、エロスが「何者かに対する愛」であるかどうかを確かめるための問答を開始する。
- §200
愛と欲求の対象が欠けているものであることの論証
ソクラテスは、欲求や愛(エロス)というものは、現在自分が欠いているもの、あるいは将来において手に入れたいと望む「手元にないもの」に対して向けられるものであることを、アガトンとの問答を通じて論証する。
- §201
エロスによる美と善の欠如とディオティマの教え
ソクラテスは、エロスが美を欠き、結果として善をも欠いていることをアガトンに認めさせ、かつて自身がマンティネイアの女性ディオティマから聞いたエロスの教えを語り始める。
- §202
中間者としてのエロスとダイモーンの定義
ディオティマは正しい意見が知恵と無知の中間にあるように、エロスもまた美と醜、善と悪の中間にあると説き、神ではなく神人媒介者である「ダイモーン」であると定義する。
- §203
ポロスとペニアによるエロスの誕生神話と性質
ディオティマは、神々と人間の媒介者としてのダイモーンの役割を解説し、エロスがその一員であることを示します。そして、ポロスとペニアの間に生まれたエロスの誕生神話を語り、彼が両親の相反する性質を引き継いだ中間的で愛求的な存在であることを説明します。
- §204
知恵を愛し求めるエロスと善への欲望
ディオティマは、知者でも無知な者でもない「中間」の存在こそが知恵を愛する者であり、エロスもその一人であることを説明する。さらに愛の対象を「美」から「善」へと置き換えることで、愛の究極の目的が幸福の獲得であることを導き出す。
- §205
広義のエロスと善への希求の限定
ディオティマは、すべての人が幸福と善を常に望んでいるという広義のエロスを説明し、ポイエーシスの例え(創作活動全体と詩作)を用いて、特定の領域(恋愛)だけが「エロス」と呼ばれている現状を指摘する。また、愛とは自己の半身ではなく、善いものを求めることだと主張する。
- §206
愛の本質と美の中での出産
ディオティマは、愛の本質が「善いものを常に手に入れたいという望み」であることを示した上で、愛の具体的な現れが身体と魂の両方における「美の中での出産」であることを明かす。
- §207-208
出産と名誉欲を通じた不死への希求
ディオティマは、エロースの本質が不死を求めることにあるとし、すべての生物が世代交代(出産)を通じてのみ不死にあずかることを語る。また、人間の名誉欲や不朽の名声への希求も、この不死への渇望に基づいていると説明する。
- §209-210
魂の身重と美の探求に至る愛の梯子
ディオティマは、肉体の身重と魂の身重を区別し、後者が徳や法、詩などの不朽の作品を産む優れたものであると説く。さらに、個別的な美しい身体から始まり、魂、制度、学問を経て、最終的に「美そのもの」の認識へと至る愛の梯子の過程を説明し始める。
- §211
愛の終局における美そのものの観照
ディオティマは、正しい愛の探求(上昇の階梯)を通じて肉体的・精神的な美から学問の美へと至った者が、その終局において、永遠不変で純粋な「美そのもの(イデア)」を突如として観照する境地を説明する。
- §212
ソクラテスの演説の結びとアルキビアデスの乱入
ディオティマは美そのものを観照する最高の生き方について語り終え、ソクラテスはこれに対する賛同とエロスへの称賛を述べる。その後、泥酔したアルキビアデスが宴席に乱入する。
- §213
アルキビアデスの着席とソクラテスとの応酬
アルキビアデスは泥酔した状態でアガトンの家に温かく迎え入れられ、アガトンとソクラテスの間に座る。そこでソクラテスの存在に気づいたアルキビアデスは驚き、二人の間で嫉妬と愛着をめぐるいつもの口論が始まるが、最終的に彼はソクラテスにも冠を授けて宴会の長となる。
- §214-215
アルキビアデスによるソクラテスへの讃辞の開始
アルキビアデスは、ソクラテスに大杯で酒を飲ませた後、エリクシマコスに促されてソクラテスへの讃辞を述べることになる。彼はソクラテスを、外見は醜いが内に神々を秘めたシレノス像や、言葉だけで人を魅了するサテュロスのマルシュアスに例え、その魂を揺さぶる力について熱弁する。
- §216-217
アルキビアデスの恥の告白と誘惑の企て
アルキビアデスは、ソクラテスの前で感じる恥と、アテナイの政治活動へと逃避してしまう自らの葛藤を告白する。さらにソクラテスの外見の奥にある驚くべき思慮深さを称え、彼を誘惑しようとして失敗した過去の試みを暴露し始める。
- §218-219
アルキビアデスの誘惑の失敗と同衾の夜
アルキビアデスは、ソクラテスへのアプローチとその失敗、そして彼の超然とした態度について、毒蛇に噛まれた例えを用いながら暴露し、二人の間に交わされた対話や、同衾した夜の出来事を語る。
- §220-221
軍務におけるソクラテスの驚異的な忍耐と武勇
アルキビアデスは、ソクラテスの卓越した忍耐力、極寒の中や戦場での超人的な武勇、そして古今独歩のユニークさを、シレノスやサテュロスに例えて称賛する。
- §222-223
アルキビアデスの演説の結びと宴の終幕
アルキビアデスはソクラテスの言論の真価を讃え、アガトンに警告を与える。宴の最後に大勢の乱入者があり、夜通しの議論の末にソクラテスが喜劇と悲劇を創る技術の同一性を語る場面で対話篇は幕を閉じる。
