底本
Cicero. M. Tullii Ciceronis De divinatione libri duo libri de fato quae manserunt. Mueller, C. F. W., editor. Leipzig: Teubner, 1915.
原文データ出典
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要旨
キケロの『運命について』は、世界のすべてを支配する「運命」の必然性と、人間の「自由意志」や道徳的責任がどのように両立しうるかを問う哲学対話篇です。カエサル暗殺後の不穏な情勢の中、キケロとヒルティウスの対話という形で議論が展開されます。アカデメイア派の立場をとるキケロは、すべてが運命によってあらかじめ決定されているという運命論を否定し、人間の意志や教育が道徳的欠陥を克服できると主張します。論理学的なアプローチを用いて、ディオドロスやクリュシッポスらによるモダリティ(可能性と必然性)論争を批判的に検証し、決定論を回避するために無原因の「原子の逸れ」を導入したエピクロス派をも退けます。さらに、カルネアデスが提示した「心の自発的運動」を支持し、外部の先行原因がない自発的意志を擁護します。最後に、ストア派のクリュシッポスが「完全な原因」と「補助的な原因」を区別して運命と同意を調停しようとした議論を分析し、両派の対立は実質的なものではなく言葉の争いにすぎないと指摘します。
目次
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- §1-5
哲学用語の解説とヒルティウスとの対話の発端
キケロは倫理学のラテン語名や命題の論理について触れた後、ヒルティウスとの対話の経緯を語る。二人はカエサル暗殺後の国事を議論した後、アカデメイア派の哲学的な討論を開始する。
- §6-10
自然と偶然による説明と自由意志の擁護
キケロは運命仮説を否定し、事物の発生は自然や偶然に帰せられると主張した上で、環境が人の気質に与える影響と個人の自由意志による具体的な行動決定の違いを論じ、スティルポンやソクラテスの例を挙げて哲学(教え)が欠陥ある本性を克服できることを示す。
- §11-14
占いの論理と可能性を巡るモダリティ論争
著者は、人間の道徳的欠陥の克服は意志と訓練によるものであるとし、占いの前提から生じる決定論(運命)が自由意志を脅かすと論じる。さらに、連結文を用いた論理を展開し、不可能なことや必然的なことを巡るクリュシッポスとディオドロスとの間のモダリティ論争を提示する。
- §15-18
クリュシッポスの命題論とエピクロスの原子の逸れ
キケロは、クリュシッポスがストア派の運命論を守るために占星術の仮言命題を連言の否定へと歪曲して言い換えようとしている滑稽さを批判する。さらに、可能なるものをめぐるディオドロスの見解を検討し、エピクロスが決定論を回避するために原子の逸れという解決不可能な難題を導入したことを論じる。
- §19-23
カルネアデスによる自発的運動と自由意志の擁護
キケロは、すべての言言明が真か偽かであることを認めつつも運命の必然性を回避できると説き、エピクロスの「原子の逸れ」を無原因の運動として批判し、カルネアデスが提示した「心の自発的運動」に基づく自由意志の擁護を支持する。
- §24-29
原因の分析と無為の議論の論駁
キケロは「原因なしに」という表現が実際には「外部の先行原因なしに」を意味することを指摘し、自発的運動や原子の動きの本来的な原因を論じつつ、すべての言明が真か偽かであっても運命の必然性は従わないこと、および「無為の議論」の誤りを論じる。
- §30-34
共に運命づけられたものと先行原因の定義
クリュシッポスによる「共に運命づけられたもの(confatalia)」の概念を用いた「無為の議論」の論破を紹介し、それに対するカルネアデスの決定論批判、および先行原因の正しい定義について論じる。
- §35-40
真の原因の定義とクリュシッポスの調停の破綻
キケロはエンニウスの詩を引用して真の原因を定義し、エピクロス派の三値論的見解を論駁する。さらに、クリュシッポスが運命の必然性と心の自発的同意(自由意志)を調停しようとして自己矛盾に陥る様子を分析する。
- §41-45
原因の区分と円柱の比喩による同意の擁護
クリュシッポスが「完全で主要な原因」と「補助的で近接する原因」を区別し、円柱や独楽の比喩を用いて運命の必然性と人間の自由な「同意」を両立させようとした議論を説明する。キケロは、この区別を前提とすれば、決定論の擁護派と反対派の対立は実質的なものではなく言葉の上での争いにすぎないと指摘する。
- §46-48
原子の偏斜の批判と散逸した断片群
キケロは、エピクロスによる原子の偏斜(クリナメン)の理論が、物理的な原因を伴わない単なる願望にすぎず、むしろ運命や必然性をより強固にしてしまう論理的矛盾をはらんでいると批判する。また、後半には本篇の欠失した箇所から引用された様々な断片群(クリュシッポスの葛藤、運命の定義、ホメロスの詩、占星術と医学、スキピオの逸話など)が収録されている。
