底本
Platonis Opera, Tomus I: Tetralogia I-II. Burnet, John, 1863-1928, editor. Oxford: Clarendon Press, 1905.
原文データ出典
Perseus Digital Library · CC BY-SA (Perseus の利用条件による)
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要旨
本作は、死刑判決を受けた哲学者ソクラテスと、彼の脱獄を支援しようとする旧友クリトンとの、刑執行前夜の牢獄での対話を描いています。クリトンは世間の評判や家族への責任を理由に逃亡を強く勧めますが、ソクラテスは多数派の意見ではなく、正邪の基準を知る専門家の知恵やロゴス(理性)に従うべきだと応じます。さらにソクラテスは、いかなる場合でも不正に対して不正をもって報いてはならないという根本原則を提示します。続いて擬人化されたアテナイの「国法」が登場し、長年アテナイに留まりその恩恵を受けてきたソクラテスは、法に従うという合意を暗黙のうちに交わしていると論じます。最終的に、脱獄は法の破壊であり正義に反すると確信したソクラテスは、神の導きに従い、逃亡を拒否して法に基づく死を受け入れる決意を固めます。
目次
9 チャンク
引用方式:section
- §43-44
クリトンの脱獄の勧めとソクラテスの夢
刑執行が近づく早朝、クリトンがソクラテスの牢獄を訪れ、デロス島からの船の到着が迫っていることを告げて、ソクラテスに脱獄を促すが、ソクラテスは自らの夢を根拠に死の猶予を推測し、大衆の評判を過剰に気にする必要はないと説く。
- §45-46
クリトンの説得と理性に従うソクラテスの決意
クリトンは、友人たちへの経済的負担や大衆からの悪評に対する心配は無用であるとソクラテスに説き、子供たちの教育や友人の義務を理由に脱獄を強く勧めます。これに対し、ソクラテスは自身の直面する運命にかかわらず、常に理性(ロゴス)による慎重な検討に従うべきであると応じ、大衆の評判をどう扱うべきかというかつての議論を再考し始めます。
- §47
大衆の思惑ではなく専門家の知恵に従うべきこと
ソクラテスは、体操選手がすべての人の意見ではなく、指導者や医師という専門家一人の指示に従うべきであるという例えを用いて、正義や善悪に関しても、大衆の評判ではなく、専門家一人の知恵に従うべきであると説き、身体や魂が損なわれた状態では生きる価値がないことを示します。
- §48
逃亡が正当であるかどうかの検討の提案
ソクラテスは、大衆の意見ではなく正邪の専門家や真理そのものに従うべきだと主張する。そして、死などの不利益を恐れることなく、逃亡が正しい行為であるかどうかのみを検討すべきだとしてクリトンに合意を促す。
- §49
不正に不正を返してはならないという合意
ソクラテスとクリトンは、たとえ不正や害を被ったとしても、決して不正を行ったり害をやり返したりしてはならないという基本原則に合意し、さらに、合意した正しいことは実行すべきであるという原則を確認する。
- §50
擬人化された国法との対話と逃亡による法の破壊
ソクラテスは脱獄が国法を破壊する行為であると論じ、擬人化された「国法」との対話を通じて、国家の法と市民との非対称な合意・従属関係を明らかにする。
- §51
祖国への服従の義務と国法との暗黙の合意
ソクラテスは法律の声を代弁し、祖国は両親や先祖以上に尊く絶対的な存在であり、その命令に従うか説得せねばならないこと、アテナイに留まり続けた者は法律に従う合意を交わしたとみなされることを論じる。
- §52
アテナイへの滞在による合意の実践的証明
法律たちは、ソクラテスがアテナイを生涯ほとんど離れず、子を儲け、裁判でも追放刑を自ら望まなかった事実を挙げ、彼が国に留まることで「行動によって」法律に従うことに合意していたと論じる。クリトンはこれに同意せざるを得ないと認める。
- §53-54
逃亡の害悪と国法の説得による脱獄の最終的拒否
法律の擬人化による説得が完結し、ソクラテスが逃亡した場合に被る社会的・道徳的不利益や冥府での報いが示される。説得を終えたソクラテスは、この教えが心に響き渡っているとして逃亡を拒否し、神の導きに従う決意をして対話篇は幕を閉じる。
