底本
Galen. Claudii Galeni Opera Omnia, Volume 4. Kühn, Karl Gottlob, editor. Leipzig: Knobloch, 1822.
原文データ出典
A Digital Corpus for Graeco-Arabic Studies · CC BY-SA 4.0
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要旨
本作は、古代ローマの医師ガレノスが、動脈の中には本来空気(プネウマ)だけが満ちており血液は含まれていないとするエラシストラトス派の説に対して反論し、動脈内には生来的に血液が存在することを論証する医学・哲学論考です。ガレノスは、動脈が傷ついた際に直ちに血液が流出するという観察事実を出発点とし、精気が先に抜けて血液が侵入するという敵対者の仮説を論理的・解剖学的に検証していきます。彼は、微小な傷から全身の精気が抜けるという説の不条理さを暴き、腸間膜などの解剖学的知見を用いて彼らの誤謬を指摘します。さらに、動脈の結紮実験や管を用いた実験という実証的な解剖学的手法を提示し、動脈の活動が心臓からの力の伝達による能動的な拡張運動であることを証明します。本書は、論理学的な推論と厳密な解剖実験を結びつけ、ドグマ派や懐疑派の方法論的誤りを批判しながら自説を確立していく論争的な構成をとっています。
目次
10 チャンク
引用方式:chapter
- §1
動脈内の血液の存在とエラシストラトス派の反論
動脈が傷つけられた際に直ちに血液が流出する現象から、動脈内には元々血液が含まれていることが論証される。これに対し、精気が微細ゆえに気づかれず先に逃げ出していると主張するエラシストラトス派の反論を紹介し、再反論のための問いかけを開始する。
- §2
精気の自己運動説と瞬時流出説の批判
ガレノスは、精気が自らの力で動くとする主張を検討し、それが外気より微細ではないこと、また針の穴のような微小な傷でも精気が瞬時に流出するという説が論理的・生理学的に不条理であることを示す。
- §3
動脈の収縮と血液侵入説の批判
ガレノスは動脈の収縮が「完全」か「部分」かという二分法を用いて血液の侵入(パレンプトーシス)説を批判する。前者の場合は第三の選択肢を落としており、後者の場合は葦の管の比喩を用いて真空が生じないことを示し、血液の浸入が不要であることを論じている。
- §4#1
針傷による精気流出と全身発熱の不合理
エラシストラトスの説に従うと、極めて細い針で皮膚を刺しただけでも全身の動脈から精気が抜け、すべての動脈が血液で満たされて発熱が生じるという不合理な帰結になることを、血管の分岐構造と精気の流出プロセスから論証する。
- §4#2
皮膚の軽傷と動脈の精気枯渇説の批判
ガレノスは、軽微な皮膚の傷でも全身の動脈の精気が空になり血液で満たされるとするエラシストラトスの説を、実際の観察や解剖学的実験の不整合性から論駁する。
- §5
解剖学的根拠による血液移行説の論駁と方法論批判
ガレノスは、動脈内の血流に関する対立者たちの誤った見解を解剖学的事実に基づいて論駁し、腸間膜と腹壁の動脈の解剖学的関係を木の幹と枝の比喩で説明する。さらに、彼らの誤謬の背景にあるドグマ派と懐疑派の認識論的な方法論的誤りを指摘する。
- §6#1
結紮実験による動脈内血液の証明と理論的誤謬の批判
著者はエラシストラトス派が動脈に血液が存在しないと主張する際の理論的誤りを、運動を否定するエレア派の詭弁に例えて批判し、動脈の結紮実験によって血液の存在を実証的に証明しつつ、彼らの前提の誤りを指摘する。
- §6#2
呼吸の冷却機能とプネウマの排出に関する論駁
ガレノスは、呼吸が心臓の冷却のためにプネウマの「質」を要求するだけであり吸入されたプネウマ自体は排出されうることを論じ、動脈が血液とプネウマを同時に含むことで運動秩序が崩れるとするエラシストラトス派の前提をストア派の仮言三段論法(後件否定)を用いて論理的に反駁する。
- §7
懐疑論への逃避の批判と動脈拡張による充満の論証
ガレノスは、論理学的な方法を拒絶してピュロン主義的な懐疑へ逃避しようとするエラシストラトス派を批判し、動脈の運動が「拡張することによって満たされる」という能動的なものであることを論証する。
- §8
管を挿入した動脈の結紮実験と拡張する力の伝達
著者は動脈の拡張が心臓からの「力」の伝達によるものであることを、動脈に管を挿入して結紮する解剖実験を通じて証明し、エラシストラトスらの説を批判する。
