エピクロス · Epicurus
ヘロドトス宛の手紙
Letter to Herodotus
ギリシア語原文(原典)と日本語・英語・中国語・韓国語の対訳・語釈を、全文無料・登録不要で公開しています。
底本
Epicurus. Epistula Prima ad Herodotum. Epicuri epistulae tres et ratae sententiae a Laertio Diogene Servatae. von der Mühll, Peter, editor. Leipzig: Teubner, 1922.
原文データ出典
Open Greek and Latin · CC BY-SA 4.0
Humanitext がクローン・再構成し、継続的に更新しています。
要旨
本作は、古代ギリシアの哲学者エピクロスが友人のヘロドトスに宛て、自身の自然学(物理学)の基本教説を体系的かつ簡潔にまとめた書簡形式の著作です。その主たる目的は、宇宙の本質を理解することで死や超自然的なものへの恐怖を払い、魂の平穏を得ることにあります。まず認識の基盤として感覚の信頼性を確立した上で、宇宙は「原子(アトム)」と「空虚」のみから構成され、無から有は生じないという基本原則を提示します。続いて、原子の運動や性質、感覚が生じる仕組みとしての「映像(エイドーラ)」の流出、そして魂もまた微細な原子からなる消滅可能な物質であることを論じます。終盤では、天体現象が神の意図ではなく自然の必然性によって起こることを明らかにし、自然学の真の目的が迷信から解放された心の平穏にあることを強調して締めくくられます。
目次
9 チャンク
引用方式:section
- §35-40
認識の基準と宇宙の構成原理
エピクロスはヘロドトスに対し、自然学を学ぶすべての人に有益な基本教説の要約を提示する。まず認識の基盤として言葉の第一概念や感覚・情念の維持(規準論)を確立した上で、無からの生成の否定や万物の不変性、そして宇宙が物体と空虚から構成されるという物理学の基本原則を示す。
- §41-46
アトムの性質と運動および宇宙の無限性
アトムの不可分性、宇宙と空虚およびアトムの無限性、形状の多様性の限界、アトムの永遠の運動とその衝突における挙動、そして世界の無限性と「影像(イドラ)」の存在について論じる。
- §47-51
映像の運動と感覚および認識の真偽
エピクロスは、映像(エイドーラ)の極めて細密な本性と光速に近い運動のメカニズム、外部の事物から映像が感覚器官に到達することで視覚や思索が生じるプロセスを説明し、認識における真偽の判定基準が判断(思い込み)の追加にあることを論じる。
- §52-56
聴覚・嗅覚の仕組みとアトムの基本的属性
本チャンクでは、聴覚と嗅覚が対象からの粒子流出と感覚器官との相互作用によって生じる仕組みが説明され、次いで、原子が形状・重さ・大きさのみを持ち性質を一切持たないこと、原子の大きさには制限があり、物理的な無限分割は否定されるべきであることが論じられています。
- §57-61
アトムの極微部分と虚空における等速運動
限定された物体の中に無限の粒子が存在することの不可能性を指摘し、感覚および原子における最小限(極微部分)の性質と測定尺度としての役割、さらに無限の空間における方向性と原子の等速運動について論じる。
- §62-67
複合体での運動と微粒子としての魂の本性
本節では、複合体における原子の運動速度の違いの説明に続き、魂の本性(極微の粒子からなる物体であること)や感覚能力の成立、肉体との共感関係、魂の可分性と消滅性、そして魂が非物質的であり得ない理由が論じられる。
- §68-73
物体の属性と偶有性および時間の本性
エピクロスは魂の議論を総括した上で、物体の諸属性を「恒常的属性」と「偶有性」に区分して論じる。また、時間はこれらと異なる独自の偶有性であって具体的現象に付随するものであることを説明し、最後に宇宙の生成と消滅の原理を提示する。
- §74-78
言語の自然的起源と天体現象および心の平安
世界の多様な形状やその可滅性について論じた後、言語の自然的起源と発展、天体現象が神的な意図や意志によるものではなく自然の必然性に従うものであることを説明し、自然学の目的が心の平和をもたらすことにあると述べる。
- §79-83
天体現象の複数原因説と迷信の克服
天体現象に関する詳細な観測よりも、複数の原因を許容する自然学の基本原則を理解することが心の平穏にとって重要であることを明らかにし、迷信的な恐怖から脱して、要約された基本原則を記憶することを勧める。
