底本
Aristotle. Aristotelis Opera, Volume 6. Bekker, Immanuel, editor. Oxford: Oxford University Press, 1837.
原文データ出典
Open Greek and Latin · CC BY-SA 4.0
Humanitext がクローン・再構成し、継続的に更新しています。
要旨
本作は、自然の法則に反して人間の利益を追求する技術、すなわち「機械(メカニカ)」の働きを幾何学的かつ力学的に解き明かす科学的・哲学的著作です。著者は、天秤やてこを含むあらゆる機械的な運動の根底に、相反する性質を併せ持つ「円」の原理が存在することを示します。前半では、てこの原理を円運動に還元し、支点からの距離や円の半径がもたらす力学的な優位性を幾何学的に証明します。中盤では、船の舵やオール、滑車、楔、さらには抜歯用の鉗子や胡桃割り器など、日常生活や技術に見られる多様な道具の仕組みが、すべててこの原理で説明できることを明かします。後半では、同心円の転がりに関する有名な「車輪のパラドックス」の解決に挑むほか、投射物の運動や、人が立ち上がる際の姿勢、水流の渦における物体の動きなど、多様な物理現象を考察します。本書は、抽象的な数学的理論を具体的な現象に適用し、自然界の驚異を力学の基本原理へと還元していく試みの記録です。
目次
38 チャンク
引用方式:chapter.section
- §0.1-0.13
技術としての機械と円の原理
驚異とされる事象の多くは、自然に反して人間の利益を追求する技術、すなわち『機械』によって生み出される。著者は、これらの機械的な問題の根底には相反する性質を併せ持つ『円』の原理があり、天秤やてこの不思議な運動もすべて円に還元されることを論じる。
- §1.1-1.10
大天秤の正確さと合成運動の原理
第1章。天秤の正確さが大きいものほど高い理由、および円運動における合成運動の原理(直線運動と曲線運動の発生条件)について、幾何学的な比例関係を用いて説明する。
- §1.11-1.20
同心円の速度比と天秤の不正操作の原理
同心円の幾何学的なモデルを用いて、大きな円を動く端点が小さな円を動く端点よりも速く動くことを証明し、この原理から大きな天秤がより正確になる理由と、商人が天秤を細工して騙す手法を説明する。
- §2.1-2.5
天秤の支持点の位置と傾きの復元
吊り紐が天秤の棹の上側にある場合と下側にある場合で、傾いた天秤が復元するかどうかの違いを、作図に基づき幾何学的に説明する。
- §3.1-3.3
てこが小力で大重量を動かす原理
てこを用いることで小さな力で大きな重さを動かせる理由を、てこを不等な長さに分割された天秤および円運動の原理に還元して説明する。
- §4.1-4.4
船の中央の漕ぎ手が最も船を動かせる理由
船の中央にいる漕ぎ手が最も船を効率的に動かせる理由を、オールをてこに見立て、船の幅が中央で最も広いことから船内のオールの長さが最大になるという幾何学的・力学的観点から説明する。
- §5.1-5.10
舵のてことしての働きと船尾設置の理由
舵の仕組みをてこの原理から説明し、なぜ小さな舵と穏やかな力で巨大な船を旋回できるのか、また舵が船尾に設置されている理由と力学的な優位性を論じる。
- §6.1
帆桁が高いほど船が速く進むてこの原理
帆桁が高いほど船が速く進む理由について、マストをてこ、マスト台を支点とする力学モデルによって説明し、支点からの距離がもたらす効果を論じる。
- §7.1-7.2
逆風時の帆の操作と円形が動きやすい理由
逆風での帆の操作方法と、舵や船乗りの動作による力学的バランスを論じ、続いて円形が動きやすい理由と円の3つの回転運動を提示する。
- §8.2-8.7
円形が動きやすい理由と重心の傾き
円形が動きやすい理由を、平面との接触が最小限であること、自重による重心の傾きが動かす力を助けること、そして円運動が二つの運動の合成から成り立っているという力学的性質から説明する。
- §9.1
大きな円や滑車で物体を動かしやすい理由
なぜより大きな円(滑車や丸太)を用いると物体を容易かつ迅速に動かせるのかという問いに対し、天秤の原理を応用し、半径が長いほど同時間内の移動距離が大きくなることで生じる効果として説明する。
- §10.1
重く大きな天秤や車輪が動かしにくい理由
天秤や車輪が重いとき、あるいは大きいときに動かしにくくなる理由を、重い物体が重力の方向(傾き)の反対側だけでなく横方向にも動きにくいという物理的性質から説明する。
- §11.1-11.2
荷馬車よりローラーで荷を運ぶ方が容易な理由
第11章1-2節において、荷馬車よりもローラー(ころ)を使う方が荷物を容易に運べる理由を、車軸における摩擦の有無やローラーの回転運動の性質から説明する。
- §12.1-12.3
手より投石器の方が遠くへ石を投げられる理由
投石器(スリング)で投射物を投げると、手で直接投げるよりも遠くへ飛ぶ理由を考察する。投射物がすでに運動していることや、スリングが長い回転半径として機能して末端速度を速めることが原因として挙げられる。
- §13.1-13.2
大きなペグや細い巻胴が回しやすい理由
同じ軸のまわりで大きなペグや細い巻胴がより小さな力で回せる理由を、回転半径が長くなることによって運動が容易になるという物理的原理から説明する。
- §14.1
支点から遠い位置を持つと木材を折りやすい理由
膝や足を支点として木材を折る際、支点(中心)から離れた位置を掴むほど小さな力で容易に折ることができる理由を、円運動における中心からの距離と動かしやすさの関係から説明する。
- §15.1-15.3
海岸の小石が回転と衝突によって丸くなる理由
海岸の小石が元は長い形状であっても丸くなる理由を、回転運動において中心から遠い部分ほど速度が上がり、激しい衝突によって摩耗しやすいためであると説明する。
- §16.1-16.2
長い木材を持ち上げるときに曲がりやすい理由
長い木材を持ち上げる際に曲がりやすくなる理由を、木材自体をてこ(手元を支点、先端を重り)に見立てることで、てこの原理に基づいて説明している。
- §17.1-17.2
楔が小さな力で大きな物体を押し分ける原理
楔が小さな力で大きな物体を押し分ける原理について、対向する二つのてことしての機能、および打撃の運動量と速度の観点から説明する。
- §18.1-18.4
複滑車により小さな力で重りを引ける原理
複数滑車の原理(ブロックアンドタックル)についての問い。滑車の数が増えることで重りを引き上げるのに必要な力が劇的に減少する仕組みを、てこの原理との比喩を用いて説明する。
- §19.1-19.2
振り下ろした斧が木をよく裂く理由と運動の力
木に載せただけの斧と振り下ろされた斧の破壊力の違いを、静止と運動における重さの作用の違い、および斧が持つ楔としての力学構造(対向する二つのてこ)から説明する。
- §20.1-20.5
棹秤が小さな分銅で大きな重さを量れる原理
棹秤(さおばかり)が小さな分銅で大きな重量(肉など)を計量できる仕組みを、天秤とてこの二重の性質、および複数の吊り紐による「逆てこ」の原理から説明する。
- §21.1-21.3
抜歯鉗子による抜歯が容易であるてこの原理
抜歯鉗子を使って歯を抜く方が素手よりも容易である理由を、鉗子が共通の支点を持つ対向する二つのてこから構成されているためであると説明する。
- §22.1-22.5
胡桃割り器が容易に胡桃を割れるてこの原理
胡桃割り器が二つのてこを組み合わせた仕組みであることを説明し、支点に近いほど小さな力で大きな圧力が加わり、胡桃を容易に割ることができる原理を論じている。
- §23.1-23.9
ひし形の対角線上を動く点の速度差と運動の合成
ひし形の二つの対角線上を動く点の速度が異なる原因を、各点の独立した運動と辺の平行移動という二つの運動の合成方向(順方向と逆方向)によって幾何学的に説明する。
- §24.1-24.9
大小の同心円が等しい距離を転がる車輪の逆説
同心円をなす大小の二つの円が同じ距離を転がり進むという「車輪のパラドックス」が提示され、幾何学的な設定と、円運動の連動に伴うパラドックスの困難が具体的に解説される。
- §24.10-24.18
同心円の回転の逆説に対する解決と中心の役割
同心円のパラドックスに対する解決策が提示される。結合された円は自ら本来の運動をするのではなく、他方の運動を強制されていること、また「同一の中心」は付帯的に同一であるにすぎず、どちらの円が運動の起点であるかによって中心の本質的役割が異なることが明らかにされる。
- §25.1-25.7
寝台の比率と紐を斜めに張る理由
寝台の長短辺の比率が二対一である理由と、紐を対角線ではなく斜めのジグザグ(対面から)に張る理由を、幾何学的な等価性と木材の強度、および紐の消費量を抑える観点から説明する。
- §26.1-26.3
長い木材を中央で運ぶ方が容易である理由
長い木材を運ぶ際、端を支えるよりも中央を支える方が容易である理由を、両端の重さが互いに相殺し合い軽くし合う力学的原理から説明する。
- §27.1-27.2
木材が長いほど肩で運ぶのが難しくなる理由
肩に担ぐ木材が長いほど運ぶのが困難になる理由は、肩を支点(中心)とした円運動において、半径にあたる長さが長いほど、同じ動きに対して両端の移動量が大きくなり、結果として揺れが大きくなるからであると説明する。
- §28.1-28.2
はねつるべに重りを付ける理由
はねつるべに鉛や石の重りを追加する理由について、空のバケツを下ろす手間を少し増やす代わりに、水で満たされたバケツを引き上げる労力を大幅に軽減するためであると説明する。
- §29.1-29.2
棒で運ぶ重りが中央にないときの負担の偏り
二人で棒を用いて重いものを運ぶ際、重さが中間にない場合に生じる負担の不均衡を、棒をてこ、重さを支点、両端の人間をそれぞれ「動かす者」と「動かされる重り」に見立てるてこの原理によって説明する。
- §30.1-30.4
立ち上がるときに膝や腰を鋭角に曲げる理由
人が立ち上がるときに、なぜ膝や腰を曲げて足の上に頭が来るような姿勢(鋭角)を取らなければならないのかを、垂直(直角)と安定の物理幾何学的関係から説明する。
- §31.1-31.2
静止物より運動中の物を動かす方が容易な理由
静止しているものよりも、すでに動いているものを動かす方が容易である理由を、反作用や前進運動の慣性的な助けの観点から説明している。
- §32.1
投げられた運動体が静止する原因の検討
投げられた運動体がなぜ停止するのかについて、推進力の消滅、反方向への牽引、重力などの傾性といった要因を挙げ、原理的な出発点の検討の必要性を示唆する。
- §33.1
投射体が手を離れた後も運動を続ける仕組み
投射体が放たれた後も動く理由について、媒介を介した連鎖的な運動伝達の仕組みと、その運動が停止する条件(伝達力の衰退と重さによる傾性)を説明する。
- §34.1-34.2
極大や極小の物体が遠くへ投射できない理由
非常に大きな物体や小さな物体が遠くへ投げられない理由について、押す力に対する抵抗の有無、および周囲の空気を動かす能力という二つの物理的要因から検討している。
- §35.1-35.5
渦巻く水の中の物体が中心に集まる理由
渦巻く水の中にある物体がすべて中心に集まる現象について、二つの仮説(物体の両端が受ける速度差による斜め方向への移動、および物体の重さが水流の制御を上回り、速度の遅い内側の円へと取り残されていくプロセス)を提示する。
