アリストテレス · Aristotle
感覚と感覚されるものについて
On Sense and Sensibilia
ギリシア語原文(原典)と日本語・英語・中国語・韓国語の対訳・語釈を、全文無料・登録不要で公開しています。
底本
Aristotle. Aristotelis Opera, Volume 1. Bekker, Immanuel, editor (Academia Regia Borussica). Berlin: Reimer, 1831. Transcribed by Humanitext from the page images.
原文データ出典
Humanitext Project · CC BY 4.0
Humanitext Project が底本の頁画像から翻刻し、継続的に校正・更新しています。
翻訳と校閲
翻訳:Gemini 3.5 Flash(2026-05-22 公開)
AI校閲 2026-09-22:検出 Gemini 3.8 Flash/判定 Gemini 3.8 Flash・GPT-6 Astra — 日本語訳 3 件・原文 1 件を修正
反映した修正(日本語訳と原文):AI校閲 4 件
最終更新:2026-10-09・変更履歴の一覧
要旨
本作は、動物が生命を維持し知性を働かせるために不可欠な「感覚」と、その対象となる「感覚されるもの」の物理的・生理学的な性質を論じた哲学・科学論文です。著者はまず、眼や耳などの各感覚器官が世界の基本元素(水、空気、火、土)とどのように対応しているかを解剖学的な知見を交えて考察し、先行する自然哲学者たちの説を批判的に検証します。続いて、色、味、匂いといった具体的な感覚対象の本質に迫り、それぞれの生成メカニズムや相互の対応関係を明らかにします。後半では、感覚の物理的性質に焦点を当て、物体や性質の無限分割可能性と感覚の最小単位、媒体を介した伝播に要する時間、そして複数の異なる感覚を同時に感知できるかという問いを検討します。最終的に、感覚を受け取る魂の主体は数としては同一でありながらも、対象の多様性に応じて異なる働きを同時に行えるという結論に至り、すべての感覚対象が大きさを有することを証明して議論を締めくくります。
目次
15 チャンク
引用方式:chapter.section
- §1.1-1.12
霊肉の結合体としての活動と感覚の意義
魂と肉体の結合体としての動物の共通および固有の活動、特に感覚の役割について論じ、各感覚が生存と知性にどのように貢献するかを概説する。
- §2.1-2.10
感覚器官の元素構成と眼が火である説の批判
アリストテレスは感覚器官の元素構成について論じ、特に眼を火とする説や光の消滅を否定しつつ、エンペドクレスやデモクリトスの視覚論を批判的に考察する。
- §2.11-2.21
眼の構成要素としての水と各感覚器官の元素
アリストテレスは、デモクリトスなどの旧来の反射理論の不備を指摘し、視覚器官としての眼の本質は水(透明性)であることを解剖学・生理学的証拠から論証する。さらに、他の感覚器官(聴覚、嗅覚、触覚、味覚)についても、それぞれを世界の基本元素(空気、火、土)に対応させていく体系を提示する。
- §3.1-3.11
色の本質と中間色の形成
各感覚器官の感覚対象、とりわけ「色」の本質について探究が開始される。色は、限定された物体における「透明なもの」の限界(境界)として定義され、白と黒の生成、さらにそれらの微細な並置による中間色の形成が説明される。
- §3.12-3.23
多様な色の生成論と物体混合による説明
白と黒以外の多様な色の生成に関して、微小要素の並置、表面の重ね塗り、および物体の完全な混合という三つの仮説を検討し、調和比との類似性を指摘しつつ、完全な混合こそが最も支配的な原因であることを明らかにする。
- §4.1-4.12
水の無味性と多様な味の生成過程
感覚対象の探究において味と匂いの主題へ移行し、水の本来の無味性と、地的な乾燥物質が熱の作用によって濾過・混入されることで多様な味(汁液)が生じるメカニズムを解説する。
- §4.13-4.24
栄養における味と色の対応および触覚還元論批判
味覚がすべての乾燥物ではなく栄養に属すること、味と色の種類の対応関係、そして感覚対象をすべて触覚に還元しようとしたデモクリトスらの説に対する批判。
- §5.1-5.11
匂いの本性と生成および味との対応
アリストテレスは味との類比に基づき、空気や水に浸透した「味のある乾燥したもの」の作用として匂いの本性を定義する。彼はヘラクレイトスらの蒸気立ち(発気)説を批判し、匂いと味の種類が対応していること、および冷却がそれらを減退させることを示す。
- §5.12-5.21
二種類の匂いと人間の脳の冷却機能
嗅覚対象には栄養摂取に関わって偶発的に快不快をもたらす動物共通のものと、それ自体で快く健康に役立つ人間固有のものの二種類があることを示し、人間特有の脳の冷却作用との関係を論じる。
- §5.22-5.32
非呼吸動物の嗅覚と匂いの非栄養性
アリストテレスは、呼吸をしない動物(魚類や昆虫など)も嗅覚を持つことを示し、その感知方法の違いやまぶたの有無に類比される器官構造について説明する。また、嗅覚が触覚と遠隔感覚の中間に位置し、匂いは栄養摂取ではなく健康に寄与することを主張して、ピタゴラス派の説を反駁する。
- §6.1-6.11
可感的な性質の無限分割と知覚の可能態
物理的物体が無限に分割されるならば、色や味などの感覚される性質も同様に無限分割可能なのかという問題を提起し、感覚における可能態と現実態の区別を導入することで、極小の性質が単独では感知されず全体として感知される仕組みを説明する。
- §6.12-6.22
光の伝播時間と媒体における感覚の成立
光の伝播に時間差があるかというエンペドクレスの説を出発点として、媒体を介した感覚における距離の影響や、運搬(運動)と質的変化の違い、数において同一の対象と種において同一の感覚の区別について論じる。
- §7.1-7.10
二つの対象の同時感覚の可能性と運動の干渉
本セクションでは、二つの異なる対象を同一の不可分な時間において同時に感覚することが可能であるかという問題が提示され、大きな運動が小さな運動をかき消すという前提のもと、同一または異なる感覚における混合と感覚の制限が議論される。
- §7.11-7.19
対立物の同時感覚の不可能性と知覚可能な時間
対立する性質、異なる類に属する性質、およびそれらの混合物が同時に感覚され得ない理由を明らかにし、さらに「感じられない時間差」の存在を想定する協和音論者の説を否定して、全ての時間が感覚可能であることを論証する。
- §7.20-7.28
魂の単一性と同時感覚および感覚対象の大きさ
感じられない時間の不在を結論づけた後、著者は、同じ分割不可能な時間の中で異なる感覚対象を同時に感知できるかという問いを検討する。魂の感覚主体は数としては同一であるが、対象の類や種に応じて本質(定義)において異なるものであるため、異なる対象を同時に感覚できると説明し、最後に感覚対象がすべて大きさ(延長)を持つことを距離の限界から証明する。
