底本
Aristotle. Aristotelis Ars Rhetorica. Ross, William David, editor. Oxford: Clarendon Press,1959 (printing).
原文データ出典
Perseus Digital Library · CC BY-SA 4.0
元ファイル: urn:cts:greekLit:tlg0086.tlg038.perseus-grc2
Humanitext がクローン・再構成し、継続的に更新しています。
翻訳と校閲
翻訳:Gemini 3.5 Flash(2026-05-22 公開)
AI校閲 2026-09-22:検出 Gemini 3.8 Flash/判定 Gemini 3.8 Flash・GPT-6 Astra — 日本語訳 30 件・原文 21 件を修正
AI校閲 2026-10-12:検出 Gemini 3.8 Flash/判定 Claude Opus 5.5 — 日本語訳 1 件を修正
反映した修正(日本語訳と原文):AI校閲 52 件・表記の統一 6 件
日本語訳を再翻訳したチャンク:2
最終更新:2026-10-12・変更履歴の一覧
要旨
本書は、人々を説得するための言論の技術を体系的に論じた作品である。弁論術を弁証術の対をなすものと定義し、話し手の人柄(エートス)、聞き手の感情(パトス)、言論そのものの論理(ロゴス)という三つの技術的説得手段を提示する。第1巻では、弁論を議会弁論、法廷弁論、示性弁論の3ジャンルに分類し、それぞれの目的や前提となる「善」や「正義」などの共通概念、さらに説得推論(エンテュメーマ)と例証を論じる。第2巻では、感情や人柄の精緻な分析を行い、様々な感情が呼び起こされる条件や、聞き手の年齢・境遇に応じた性格特徴、そして議論を組み立てるための多様な論拠(トポス)を分類・解説する。第3巻では、言論を明瞭かつ適切に伝えるための文体(スタイル)や比喩の技法を扱い、さらに演説全体の配列(序論、叙述、証明、結語)について具体的な実践方法を説く。このように本書は、単なる美辞麗句の技術にとどまらず、論理的推論と人間理解に基づいた説得の体系を構築している。
目次
98 チャンク
引用方式:book.chapter.section
- §1.1.1-1.1.10
弁論術の定義と従来の技術論批判
著者は弁論術を弁証術の対をなすものと定義し、既存の技術書が説得の核心であるエンテュメーマ(説得推論)を無視し、感情移入などの事柄の外部の要素ばかりを扱っていることを批判する。また、優れた法律は裁判官の恣意を避けるために可能な限り客観的な規定を自ら定めるべきであるとし、法廷演説よりも政治演説の方が本来より高潔で外的歪曲が少ないことを指摘する。
- §1.1.11-1.1.14
説得推論の重要性と弁論術の有用性
アリストテレスは説得推論(エンテュメーマ)を弁論術の核心と位置づけ、それが弁証術の推論に対応するものであることを明らかにする。さらに、弁論術が真実を擁護するための有用な技術であることを論証し、その本質的な定義と目的を再提示する。
- §1.2.1-1.2.7
弁論術の定義と三つの技術的説得手段
弁論術を「各事柄における説得力ある要素を観察する能力」と定義し、説得手段を非技術的なものと、三つの技術的なもの(話し手の人柄、聞き手の感情、言論そのもの)に分類した上で、弁論術が弁証術や倫理・政治の探究と深く結びついていることを示す。
- §1.2.8-1.2.12
例証と省略三段論法および弁論術の対象領域
アリストテレスは弁論術における例証と省略三段論法を弁証術の帰納と三段論法に対応づけ、それらの違いを整理する。また、弁論術の対象領域は、確定的な技術がなく、他のあり方も可能な人間が熟議する不確実な事柄であり、その聴衆は長大な推論を追う能力を持たない人々であると規定する。
- §1.2.13-1.2.18
省略三段論法の前提と蓋然性および徴標の分類
アリストテレスは、省略三段論法(エンテュメーマ)と例証(パレデイグマ)が、通常の三段論法よりも少数の前提、とりわけ聞き手が補完できる既知の事実を省略して構成されるべき理由を述べる。そして、その前提の素材となる「蓋然的なもの(エイコス)」と「徴標(セーメイオ)」を定義し、さらに徴標の中に反駁可能なものと、反駁不可能で必然的な「確証(テクメーリオン)」があることを分類・説明する。
- §1.2.19-1.2.22
例証の論理的性格と共通トポスおよび固有トポス
アリストテレスは「例証」が類似の個別的事例から別の事例を導く「部分から部分へ」の推論であることを示し、さらに、省略三段論法には学問横断的な「共通トポス」と、各学問分野に固有な「固有トポス」の二種類が存在することを論じる。
- §1.3.1-1.3.9
弁論の三つの種とその目的および時間
弁論の3つのジャンル(議会弁論、法廷弁論、示性弁論)を提示し、それぞれの構成要素となる聞き手、適合する時間、目指すべき目的を規定した上で、すべての弁論において前提(プロタセイス)をあらかじめ備えておくことの必要性を論じる。
- §1.4.1-1.4.8
議会弁論の対象となる事柄と五つの主要論題
議会弁論における熟慮の対象が、必然的な事柄や偶然の事柄ではなく、人間がコントロール可能な事柄であることを示し、その主要な5つのテーマ(財政、戦争と平和、国土防衛、輸出入、立法)について概説する。
- §1.4.9-1.4.13
戦争と平和・防衛・食糧供給および立法
アリストテレスは、議会弁論で扱われる五つの主要議題のうち、戦争と平和、国土の防衛、食糧供給、そして最後に国制の維持や消滅を左右する最も重要な「立法」について、それぞれ弁論家が備えるべき具体的な知識と観察対象を論じ、これらすべてが政治学の領域に属することを強調する。
- §1.5.1-1.5.8
勧告弁論の目的としての幸福とその構成要素
助言や説得の根本的な標的としての「幸福」とその構成要素(高貴な生まれ、優れた子供、富、名声など)を提示し、それぞれの具体的な定義を順次解説する。
- §1.5.9-1.5.18
名誉と身体の卓越性および幸運の定義
幸福の構成要素である、名誉、身体の卓越性(健康、美、強さ、大きさ、競技能力)、穏やかな老後、友人、幸運の具体的な定義と、幸運の特性について解説し、徳の定義については称賛の議論の章に延期すると宣言する。
- §1.6.1-1.6.16
善と有益なことの定義およびその構成要素
アリストテレスは勧告(議会弁論)における究極の目標である「有益なこと(便益)」および「善いこと」の定義を提示し、それらを構成する自足性や、様々な内的・外的な善(幸福、諸徳、身体的長所、富、友人、名誉、能力など)を列挙して説明する。
- §1.6.17-1.6.30
論争の余地がある善を論証するための論拠
アリストテレスは論争の余地がある善について、反対の事物の性質、敵や大衆の評価、賢者の選択、可能なこと、ふさわしいこと、個人の好尚などから導かれる多様な論拠を列挙する。
- §1.7.1-1.7.13
より大きな善と比較判定の諸基準
「より大きな善」や「より有益なもの」を比較・判定するための様々な基準(包摂関係、随伴関係、原理と目的、自足性など)が提示され、それらの基準が弁論においていかに双方向的に活用され得るかが論じられる。
- §1.7.14-1.7.28
より大きな善を判定する個別的トポス
アリストテレスは、「より大きな善」を判定するための多様なトポス(論拠)を列挙し、稀少性と実用性、目的と手段、徳と悪徳、知者の判断、快楽、持続性、文法的連動など、複数の観点から比較衡量する方法を提示する。
- §1.7.29-1.7.41
稀少性や分割などによる善の比較基準
善の大きさを比較する多様な基準(共有と希少、分割と合成、生得性、真実と外見、唯一性など)を提示し、勧誘と忌避のための説得材料に関する議論を締めくくっている。
- §1.8.1-1.8.7
四つの国制の定義と目的および説得への利用
国制の理解が説得において最も重要であることを示し、四つの主要な国制(民主制、寡頭制、貴族制、君主制)の定義とその目的、および市民を説得するために国制の性格(人柄)を把握する必要性を論じる。
- §1.9.1-1.9.17
徳と美の定義および諸徳と高貴な行為の特質
美徳と悪徳、美と醜の定義から議論を始め、正義や勇敢、節制などの具体的な諸徳の内容を規定したうえで、何が美しい行為や兆候とみなされるかを分析する。
- §1.9.18-1.9.31
高貴な行為の追加基準と称賛の修辞技法
アリストテレスは美(称賛に値すること)の追加的な基準(死後に属する事柄、無私の性質を持つもの、人々が恥じないことなど)を提示し、対象の性質を好意的に再解釈したり、聴衆の価値観に適合させたりする称賛の実践的な修辞技法を論じる。
- §1.9.32-1.9.41
称賛と頌徳の区別および演説の各ジャンルと論法
称賛、頌徳、幸福の祝いなどの定義と、勧告と称賛の表現上の変換可能性を整理し、さらに誇張や例証、エンテュメーマといった弁論手段の各ジャンル(式典演説・審議・法廷)への適性を述べる。
- §1.10.1-1.10.9
不正行為の定義と人間の行動を引き起こす七つの原因
告発と弁明に関する議論を開始し、不正行為(法律に反する自発的な加害)を定義し、その原因となる人間の行為の7つの源泉(偶然、自然、強制、習慣、理性的思考、怒り、欲望)を特定する。
- §1.10.10-1.10.19
行為の七つの原因の定義と善および快への志向
アリストテレスは性格や属性に随伴する欲求の傾向について述べた後、人間のすべての自発的行為の原因(偶然、自然、強制、習慣、理性的思考、怒り、欲望)を個別に定義する。さらに、これらすべての原因から生じる行為が、善あるいは快(またはそのように見えるもの)を目的としていることを体系的に示す。
- §1.11.1-1.11.8
快楽の定義と快を生じさせる諸要因
快楽を魂の運動および本来の自然状態への急速な回復と定義し、習慣、強制の不在、欲望の充足、そして現在・過去・未来に対応する感覚・記憶・期待が快をもたらす仕組みを説明する。
- §1.11.9-1.11.18
情念や行為が快楽をもたらす諸条件
怒りや愛などの様々な情念や、復讐、勝利、ゲーム、名誉、友情、称賛、お世辞といった具体的な事象が、人間の記憶、期待、現在の感覚を通じてどのように快楽をもたらすかを詳述する。
- §1.11.19-1.11.29
学習や模倣など多様な対象が快い理由
変化や学習、善い行い、模倣、同族への親近感や自己愛、支配、得意分野での活動、そして滑稽なものなど、多様な事象が快いとされる理由を人間の自然や認識能力に基づいて論じる。
- §1.12.1-1.12.14
不正を行う者の精神状態と処罰を免れうる条件
アリストテレスは不正を働く者たちがどのような状況や精神状態にあり、どのような能力や手段を持っていれば、自身の行為の発覚や処罰を免れうると考えるかを、詳細に分類して提示している。
- §1.12.15-1.12.35
不正の標的となる人物と対象の諸特徴
不正を企てる人々が、標的とする相手(所有物、距離、警戒心、人間関係、不義の履歴等)や、対象とする事物(隠蔽しやすさ、恥の意識等)の特徴に基づき、いかに不正に及ぶかを網羅的に分類し、本章の議論を総括する。
- §1.13.1-1.13.9
正義と不正の行為の分類と法の種類
正義と不正の行為を、固有の法・共通の法(自然法)という法律の分類、および共同体・個人という対象の分類に基づいて体系化し、裁判における罪名の厳密な定義の重要性を説く。
- §1.13.10-1.13.19
行為者の意図と成文法を補う衡平の性質
不正行為の成立には行為者の「選択」が必要であることを確認した上で、成文法の限界を補う「衡平(エピエイケス)」の定義とその具体例、および衡平な態度をとる人間の特徴を論じる。
- §1.14.1-1.14.7
不正行為の重大さを判断する諸基準
不正行為の重大さを測る様々な基準(意図の大きさ、損害、回復不能性、社会的・道徳的影響、不文法への抵触など)が提示され、何がより深刻な不正とされるかが論じられる。
- §1.15.1-1.15.14
技術外の説得手段における法律と証人の利用法
本章では技術外の説得手段について論じられ、まず法律と証人の利用法が提示される。法律については成文法が自分の不利な場合と有利な場合でのそれぞれの弁論上の対処法が、証人については古い証人と新しい証人の種類が説明される。
- §1.15.15-1.15.25
最近の証人と契約に関する弁論術の論点
最近の証人の定義、証人の有無に応じた法廷での論拠の立て方、および契約を自己に有利または不利に主張するための様々な弁論技術を提示する。
- §1.15.26-1.15.33
拷問による証言と誓約の扱いに関する論法
拷問による証言の有効性と無効性を論じる手法を示し、次いで誓約の提案や受諾をめぐる四つの場合の論法、および過去の誓約と現在の主張との矛盾に対処する技術外の説得手段を解説する。
- §2.1.1-2.1.9
語り手の人柄と聞き手の感情による説得の基礎
アリストテレスは説得が判断を下すためのものであると定義し、話し手自身の信頼性(知慮、徳、好意)と、聞き手の感情(パトス)が果たす役割の重要性を論じ、感情を分析するための三つの視点を提示する。
- §2.2.1-2.2.10
怒りの定義と軽視の三つの形態
アリストテレスは怒りを「不当な軽視に対する復讐の欲求」と定義し、軽視の三つの形態(侮蔑、嫌がらせ、傲慢)を説明した上で、人がどのような苦痛や優越性の状態にあるときに怒りを生じやすいかを分析する。
- §2.2.11-2.2.27
怒りを生じさせる状況と対象およびその活用法
怒りが生じやすい感情的・身体的状況を解説したのち、人々がどのような行為(嘲笑や不注意など)やどのような相手(友人、劣る者、尊敬する相手など)に対して怒りを抱くのかを具体的に列挙し、最後にこの知見を弁論術においていかに活用すべきかを概説する。
- §2.3.1-2.3.17
穏和の定義と怒りが鎮まる条件および対象
アリストテレスは怒りの対立感情としての「穏和」を定義し、人々が穏やかになる条件、穏やかに接する相手の特徴、そして穏和な状態をもたらす時間や心理的状況について多角的に分類している。
- §2.4.1-2.4.18
友愛の定義と友として愛される人々の特徴
親愛(友愛)および愛すること(友とすること)の定義を提示し、人々がどのような性質を持つ人々を友として愛するのか、その具体的な要件や特徴を詳細に列挙する。
- §2.4.19-2.4.32
友愛の追加条件と敵意および怒りと憎しみの違い
アリストテレスは人々が親愛を抱く具体的な条件や対象(同調、同質性、信頼、恥の共有など)を列挙し、親愛の種類と原因を定義する。続いて、これと対比される敵意(憎しみ)の本質を分析し、怒りと憎しみの相違点を多角的に論じている。
- §2.5.1-2.5.13
恐れの定義と恐怖の対象および恐れを抱く状態
アリストテレスは「恐れ」を未来の破壊的・痛烈な悪の予期から生じる苦痛として定義し、どのような人々や状況が恐れを呼び起こすかを体系的に解説するとともに、恐れを抱く主体の心理的条件について論じる。
- §2.5.14-2.5.22
恐れの条件と自信の定義および自信を生む要因
恐れを抱くための心理的条件を分析し、特に救済の望みが必要であることを示した上で、恐れの対立概念である「自信(安心)」の定義と、自信を抱かせる条件について論じる。
- §2.6.1-2.6.16
恥と恥知らずの定義および恥を感じる原因と対象
恥と恥知らずの定義を提示し、恥をもたらす様々な悪徳の行為を列挙する。また、不名誉の感覚が他人の評判に基づくものであることから、人々がどのような相手の前で恥を感じるかを説明する。
- §2.6.17-2.6.27
恥を感じる相手の特徴と恥が生じる具体的な状況
恥を感じる対象となる人々(同等の者、自分を許さない者、告げ口する者、失敗を知らない者など)の具体例と、人が実際に恥を感じる状況やその条件について詳細に論じる。
- §2.7.1-2.7.6
好意の定義とその大小および好意の立証と論駁
アリストテレスは「好意」を必要とする者への無償の奉仕として定義し、その大小を決定する要因を挙げる。さらに、弁論術において好意の存在を示し、あるいは敵の主張する好意を無効化するための具体的な論証方法や関連する範疇を提示する。
- §2.8.1-2.8.16
憐れみの定義とそれを抱く条件および対象となる不幸
憐れみ(エレオス)の定義を提示し、憐れみを抱く人の条件や、どのような不幸・状況が憐れみを引き起こすかを論じる。
- §2.9.1-2.9.8
義憤の定義と羨望との違いおよび対象
憐れみに対立する感情である義憤を定義し、他人の不当な成功に対する苦痛というその性質について論じる。また、義憤と羨望の違いを説明し、これらの感情を抱く対象や状況の分析を開始する。
- §2.9.9-2.9.16
義憤を抱きやすい人とその対象および憐憫の排除
著者は、新参の幸運な者や分不相応な地位にある者に対して人々が義憤を感じやすいこと、また自己を正当に評価する高潔な人々こそが義憤を抱きやすいことを論じ、弁論において聴衆の憐れみの感情を排する方法を示す。
- §2.10.1-2.10.11
羨望の定義とそれを抱く条件および対象
羨望(嫉妬)の定義と、羨望を感じやすい人々の条件(等しい立場にある者、社会的地位や知恵を重んじる者、器の小さい者など)を挙げる。また、羨望の対象となる具体的な事柄、他者が成功を収めることで受ける苦痛、そしてこの感情を弁論においてどのように利用すべきかを論じている。
- §2.11.1-2.11.7
競争心の定義と抱く人および対象と軽蔑
羨望(嫉妬)と対比される高潔な感情としての「競争心(ゼーロス)」の定義を与え、その感情を抱きやすい人の特徴、競争心の対象となる善いものや人々について論じ、最後にその反対である軽蔑について述べる。
- §2.12.1-2.12.16
性格の諸要因と若者の性格的特徴
著者は性格を分析するための前提として、感情、状態、年齢、境遇の定義を示した上で、特に若者の性格的特徴、すなわち欲望の強さ、勝利や名誉への執着、純真さや希望に満ちた傾向、過度な行動パターンについて論じている。
- §2.13.1-2.13.16
年配者の性格と若者との対比
年配者や全盛期を過ぎた人々の性格の特徴を論じる。若者とは対照的に、不信、卑屈、臆病、生への執着、過去の記憶に基づく生き方などが、彼らの特徴として説明される。
- §2.14.1-2.14.4
全盛期にある人の性格と肉体および魂の盛年期
全盛期にある人々の性格について、若者と老人の極端な特徴を取り除いた中庸の性質として描写し、肉体と魂がそれぞれ全盛期を迎える年齢を定義する。
- §2.15.1-2.15.3
名門の生まれが性格に与える影響と血統の変質
幸運がもたらす善きものの影響について、まず名門の生まれが人間の性格に与える影響を論じる。「名門の生まれ」と「高潔さ」を区別し、優れた血統であっても世代交代の中で本性から逸脱し、狂気や愚鈍へと傾いていく現象を説明する。
- §2.16.1-2.16.4
富がもたらす性格と成金の特徴
富に伴う人間の性格的特徴(傲慢、贅沢、見栄など)を分析し、特に新興の富者(成金)と代々の富者との間にある性格的な違いを論じる。
- §2.17.1-2.17.6
権力と幸運がもたらす人々の性格
権力に伴う性格(富との類似性と、より高い名誉心・責任感・威厳などの利点)および幸運(不条理さや敬虔さなど)に伴う性格について論じる。
- §2.18.1-2.18.5
言論と判断の関係および共通トピックの導入
説得的な言論がすべて判断に向けられていることを確認し、各弁論に共通する「可能・不可能」「大きさ(程度)」といった共通トピック(共通の場所)の導入を行う。
- §2.19.1-2.19.16
可能と不可能に関する共通トポス
可能と不可能に関する論拠(トポス)として、反対物、類似物、難易度、部分と全体、類と種などの関係性から、可能であるか否かを判断する様々な基準を提示する。
- §2.19.17-2.19.27
過去と未来の事実および大小に関する共通トポス
過去に起こった事実および将来起こる可能性を推測するための一般的な論拠(トポス)を提示する。また、事物の大小や誇張の議論については、普遍的な大きさの定義を探求することは無用であり、以前提示した議会弁論における善の大きさに関する議論を参照すべきであることを確認して本章を閉じる。
- §2.20.1-2.20.9
例証の種類とその効果的な使用法
共通の説得手段(トポス)である例証とエンテュメーマについて論じ始める。まず例証を過去の出来事と創作(比喩と寓話)に分類し、ステシコロスやイソップの寓話を例に挙げ、エンテュメーマの有無に応じた例証の効果的な使用法を解説する。
- §2.21.1-2.21.8
格言の定義と四つの分類
アリストテレスは格言(グノーメー)の定義について述べ、それが普遍的で行動に関連する主張であり、推論(エンテュメーマ)の結論や前提に対応すること、また付加理由の有無などによって格言には4つの種類が存在することを説明する。
- §2.21.9-2.21.16
格言の使用条件と聴衆への心理的効果
格言を用いるに適した年齢や条件、周知の格言や世間の通念に反する格言の応用方法を説明し、格言が聴衆の心理に訴える効果や語り手の人柄を良く見せる効果について論じている。
- §2.22.1-2.22.8
エンテュメーマの構成と個別的事実の把握
エンテュメーマ(推論)の一般的な探求方法とトポスを区別し、演説の前提として、論題となる具体的状況に応じた個別的事実をあらかじめ把握しておくことの重要性を説く。
- §2.22.9-2.22.17
固有の事実の重要性とエンテュメーマの二分類
議論を行う際には対象に固有の事実から出発すべきであることをアキレウスの具体例を用いて示し、次いでエンテュメーマを証明的なものと反駁的なものに分類する。
- §2.23.1-2.23.5
証明的エンテュメーマのトポス:反対と度合い
証明的エンテュメーマの具体的なトポス(論式)のうち、反対概念、派生語、相関者、度合いの大小、および同等という最初の5つのトポスを、豊富な引用や事例とともに提示する。
- §2.23.6-2.23.11
時間・言質・定義・帰納に基づくトポス
アリストテレスは説得的なトポスの続きを挙げる。「時間の考慮」を利用したトポス、「相手自身の言葉」に基づく論駁、事物の「定義」に基づく推論、「多義性」や「分割法」、そして具体的な事実を列挙する「帰納法」を、数々の歴史的・文学的事例を交えて説明する。
- §2.23.12-2.23.16
権威の判断や結果の比較に基づくトポス
本チャンクでは、修辞学におけるトポスのうち、他者や権威の判断に基づく議論(§12)、全体を構成する部分の列挙(§13)、随伴する善悪の結果の比較(§14)、対立する事柄における論理の反転(§15)、公私の称賛の乖離の利用(§16)という5つの方法を、具体的な例証を交えて論じている。
- §2.23.17-2.23.22
類比・同一の結果・動機などに基づくトポス
アリストテレスは『弁論術』第2巻23章において、比例関係(類比)、同一の結果からの原因帰属、時間経過による選択の逆転、目的と結果の連動、訴訟と助言における行為の動機、そして「信じがたい事実」の逆説的証明という、多種多様な論理の型(トポス)を例示している。
- §2.23.23-2.23.30
論駁のトポスと優れたエンテュメーマの条件
アリストテレスは論駁、中傷の解明、原因の有無、代替案の存在、既成事実との矛盾、過去の過ち、および人名から出発する様々な弁論術のトポスを例示し、最後に論駁的エンテュメーマが聴衆に与える効果と優れた推論の条件を説明する。
- §2.24.1-2.24.5
見せかけのエンテュメーマが生じるトポス
アリストテレスは真の推論と見せかけの推論の区別を応用し、見せかけのエンテュメーマ(謬論)が生じる5つのトポス(表現形式、多義性、分割と結合、誇張、徴標)を具体例を交えて説明する。
- §2.24.6-2.24.11
誤謬のトポスの続きと詭弁的弁論術の批判
アリストテレスは引き続き、見せかけのエンテュメーマを生み出す様々な誤謬のトポス(偶然的属性、帰結の反転、虚偽の原因、時や状況の欠落、無条件と条件付きの混同)を検討する。さらに、これらの論理的歪みを利用したコラクスやプロタゴラスの修辞的技術の欺瞞性を暴く。
- §2.25.1-2.25.14
対抗推論と四つの異議によるエンテュメーマの反論
アリストテレスはエンテュメーマへの反論(解消)の方法として、対抗推論と四つの異議(それ自体、反対、類似、判定)を挙げ、特に蓋然性に基づく議論への効果的な反論方法について詳述する。
- §2.26.1-2.26.5
誇張と縮小の位置づけと第2巻の結び
アリストテレスは、誇張と縮小はエンテュメーマの要素ではなくそれ自体がエンテュメーマであること、また反論的エンテュメーマや異議は特殊な類ではないことを論じ、第2巻を締めくくって第3巻(文体と配列)への移行を告げる。
- §3.1.1-3.1.10
弁論の三要素と演技および文体の重要性
本章の冒頭で弁論の三要素(説得の手段、文体、配列)を提示し、特にこれまで体系的な技術が確立されてこなかった「演技(デリバリー)」の重要性と、それが聴衆の質の悪さに起因すること、さらに初期の詩的文体から日常の言論に近い文体への移行の歴史を論じている。
- §3.2.1-3.2.9
文体の徳としての明瞭さと隠喩の自然な使用
本章では、散文における文体の徳(卓越性)が「明瞭さ」と「ふさわしさ」にあることを主張し、日常語と隠喩を自然に用いることの重要性を説く。
- §3.2.10-3.2.15
隠喩と形容語の選定および指小辞の用法
隠喩や形容語を適用する際、同類の中で適切なものを選ぶべきであり、それが文体の美醜を左右することを、具体例やブリュソンの批判を交えながら論じ、さらに指小辞の効果について説明している。
- §3.3.1-3.3.4
散文の文体を損なう冷えの四つの原因
散文における「冷え(不自然な表現)」の四つの原因(合成語、古語、過剰な形容語、不適切な隠喩)を、アルキダマスやゴルギアスなどの例を挙げながら論じる。
- §3.4.1-3.4.4
直喩の性質と隠喩との関係および実例
直喩が比較の語を伴う隠喩の一種であることを定義し、プラトンやペリクレスなどの多彩な例を引きながら、優れた直喩は隠喩としても機能することを示し、さらに比例的隠喩の対称的な対応関係を説明する。
- §3.5.1-3.5.7
正しいギリシア語を話すための五つの要素
表現の基本である「ギリシア語を正しく話すこと」のための5つの要素(接続詞、固有の語、不確実さの回避、名詞の性、数)を提示し、書かれたものは句読点を打ちやすく読みやすいものであるべきだと論じている。
- §3.6.1-3.6.7
文体の重厚さと簡潔さを生み出す表現手法
文体の重厚さを生み出すための諸手法(定義の使用、比喩、複数化、形容詞の分離、接続詞の使用、欠如による描写)と、それらを簡潔さにするための逆の手法について論じる。
- §3.7.1-3.7.11
文体の適切さと感情や人柄の表現
弁論における表現の「適切さ」の基準として、感情(パトス)と人柄(エートス)の表現、および事柄への相応性を論じ、過度の表現の治療法や効果的な修辞技法について述べている。
- §3.8.1-3.8.7
散文におけるリズムとパイアン格の重要性
散文の適切な表現形態について論じ、韻律的すぎず無律動でもないリズム、特にパイアン格の重要性を比率の観点から解説する。
- §3.9.1-3.9.6
連続的な文体と周期的な文体および節の長さ
アリストテレスは言論の表現スタイルを「数珠つなぎ(連続的)」と「整えられた(周期的)」の二種に分類し、周期的なスタイルが記憶しやすく理解しやすいこと、および周期(ピリオド)や節(コーロン)の適切な長さを論じている。
- §3.9.7-3.9.10
周期的な文体における対比と等長と類音
本チャンクでは、節からなる表現形態のうち、対比、等長、類音の三つの主要な修辞的特徴について、イソクラテスらの演説から引かれた豊富な具体例とともに説明される。
- §3.10.1-3.10.6
機知に富んだ表現の源泉と容易な学びの快楽
気のきいた表現(アステイア)や評価される表現の源泉について、容易な学びが快いという人間の本性に基づき、隠喩、対比、生き生きとした描写の3つを目指すべきであることを示す。
- §3.10.7
比例による隠喩の優位性と具体例
アリストテレスは、最も効果的な隠喩が比例(類比)によるものであることを示し、ペリクレスをはじめとする著名な弁論家たちの具体例を列挙して、それらがどのように聴衆の目の前に情景を描き出すか(生き生きとした描写)を解説する。
- §3.11.1-3.11.7
活動性の付与による活写と予期を裏切る機知
隠喩や直喩において、無生物に生動感(活動、エネルギー)を与えることで「目の前に描き出す」手法について解説し、さらに聞き手の予期を裏切る言葉遊びや諧謔がもたらす効果を論じる。
- §3.11.8-3.11.16
同音異義語の活用と隠喩としての直喩や誇張法
洗練された表現を生み出すための同音異義や比例の用法、およびふさわしい対象に適合させる重要性を論じる。また、直喩や諺、誇張法も本質的には隠喩の一種であり、それぞれの効果や若々しい特徴を説明している。
- §3.12.1-3.12.6
弁論のジャンルに応じた適切な文体の差異
アリストテレスは弁論のジャンル(書き言葉、討論、民衆演説、法廷弁論など)ごとに適した文体(精密さや演技性)の違いを論じ、接続語省略や反復の効果を解説した上で、文体の徳の中庸性についてまとめている。
- §3.13.1-3.13.5
弁論に不可欠な二つの部分と過剰な区分の批判
アリストテレスは、弁論に必要な二つの基本部分(提示と立証)を定め、当時の修辞学者たちによる不必要な細分化を批判する。
- §3.14.1-3.14.6
序論の機能と展示的弁論・法廷弁論での特徴
アリストテレスは、弁論の導入部である「序論」の定義と役割を論じ、展示的弁論と法廷弁論におけるそれぞれの特徴や、文学作品のプロローグなどとの類似性を解説する。
- §3.14.7-3.14.12
序論における偏見の排除と好意や注意の獲得
アリストテレスは法廷・展示・政治の各弁論における序論の多様な機能(好意の獲得、中傷の除去、注意の喚起など)を分析し、聞き手の性質や必要性に応じた役割を説明する。
- §3.15.1-3.15.10
中傷を論駁するための論拠と中傷の技巧
本節では、弁論において中傷や不利な評判を払いのけるために用いられる様々なトポス(論拠)を分類・解説し、さらに中傷する側が用いる技巧的な手法についても論じている。
- §3.16.1-3.16.7
叙述の構成と演示弁論における適度な長さ
アリストテレスは叙述(ディエーゲーシス)について論じ、演示弁論における部分的な叙述の必要性や、迅速さではなく「適度さ」が重要であることをパンこねの喩えなどを用いて説明する。
- §3.16.8-3.16.11
叙述における性格と感情の描写および民会での役割
アリストテレスは、弁論における叙述に性格や感情の描写を盛り込むべき理由とその技術を説明し、さらに未来を扱う民会弁論においては叙述の役割が限られることを論じている。
- §3.17.1-3.17.10
弁論における証明の提示とエンテュメーマの用法
弁論における証明(説得)のあり方を論じ、法廷弁論と民会弁論での証明の違いや、エンテュメーマや格言を効果的に使用するための留意点について解説している。
- §3.17.11-3.17.17
称賛の挿入と反駁の順序および人格の表現技法
誇示的弁論における称賛の技法、エンテュメーマの適切な使用、および反駁の順序と、別の人物に語らせる性格描写(エトス)の技術について論じている。
- §3.18.1-3.18.7
尋問の好機と質問への応答および滑稽の扱い
弁論における効果的な尋問の4つの機会と、質問への適切な回答方法、および滑稽な表現(ユーモア)の扱いについて論じている。
- §3.19.1-3.19.6
結語を構成する四要素と無接続の文体
アリストテレスは弁論の結語(エピロゴス)を構成する四つの要素(聴衆への働きかけ、誇張と矮小化、感情の喚起、要約)を定義し、それぞれの役割と最後を締めくくるのに適した無接続の文体について論じている。
