底本
Aristotle. Aristotelis Politica. Ross, William David, editor. Oxford: Clarendon Press, 1957 (printing).
原文データ出典
Perseus Digital Library · CC BY-SA 4.0
元ファイル: urn:cts:greekLit:tlg0086.tlg035.perseus-grc2
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要旨
本作は、人間にとって最高の善の実現を目指す共同体である「ポリス」のあり方と、それを支える最適な国制や教育の理論を究明した体系的な政治哲学書です。著者アリストテレスは、人間を本性的に「政治的動物(ズーオン・ポリティコン)」と定義し、最小単位である家政や奴隷制の分析から出発して、国家の形成プロセスや市民の要件を精緻に論じます。前半ではプラトンの共有国家論や既存の実在する国制を批判的に検証し、国家の目的が単なる生存ではなく「善く生きること」にあることを明らかにします。中盤では民主政や寡頭政などの諸国制を分類し、内紛による体制崩壊の諸原因とその保存策を分析します。そして後半では、中庸に基づいた理想的な国家の規模や制度を構想し、市民の徳を育むための体育や音楽を中心とした公的教育のあり方を提示して締めくくられます。
目次
155 チャンク
引用方式:book.bekker_page
- §1.1252a-1.1252b
ポリスの本質と家庭から城邦への自然な形成
アリストテレスは、あらゆる共同体が善を目的として形成されるとし、最大の共同体であるポリス(政治的共同体)は最上の善を目指すと定義する。支配の区別を明らかにするため、彼はポリスを構成する最小単位である家や村の発生から、ポリスの自然な形成過程を分析する。
- §1.1253a
政治的動物としての人間とポリスの優先性
アリストテレスは、人間が言語(ロゴス)と倫理的感覚を持つがゆえに本性的に「政治的動物」であること、またポリスは本性上個人に優先する全体であることを論じ、法や正義を欠いた人間は最も邪悪な存在になると警告する。
- §1.1253b
家政の三つの関係と道具としての奴隷
家政を構成する基本的な三つの支配・共同関係(主人と奴隷、夫と妻、父と子)について概説し、特に主人支配と奴隷の本質、および生活の道具としての奴隷の定義について論じる。
- §1.1254a
行為の道具としての奴隷と支配の原理
道具と財物、制作と行為の区別に基づき、奴隷を「行為のための分離可能な道具」と定義する。さらに、自然における支配・被支配の普遍的原理について議論を開始する。
- §1.1254b
魂と肉体の関係に基づく自然的主奴関係と奴隷の定義
肉体と魂、人間と動物などの関係から支配と被支配の自然本性を論じ、奴隷とは理性を感知するのみで所有しない者であることを説明する。
- §1.1255a
法による奴隷と本性による奴隷の正当性をめぐる議論
本性的に奴隷とされる者が存在する一方で、戦争や実定法に基づく奴隷制度についてはその正当性をめぐる対立があることを論じ、双方が拠って立つ議論の本質を分析する。
- §1.1255b
主従関係における相互の利益と主人の支配の特質
本性上の奴隷の有無をめぐる論争を整理し、自然の秩序に適合する本来の主従関係においては共同の利益と友情が存在することを説明する。また、主人による支配(家政)と市民による支配(政治)を明確に区別し、奴隷を管理する技術のあり方を規定する。
- §1.1256a
獲得術と家政の関係および食糧調達による生活様式
獲得術が家政とどのような関係にあるかという問題を提起し、動物や人間の様々な生活様式(遊牧、狩猟、農耕など)が食糧の獲得方法に応じて決定されていることを分析する。
- §1.1256b
自然による備えと家政に属する自然な獲得術
アリストテレスは人間の様々な自活的活計の組み合わせを述べた後、自然がすべての生物に段階に応じて生存の手段を提供していることから、万物が人間のために作られたこと、そして自然に従った限定的な獲得術が家政の一部分であることを論じる。
- §1.1257a
財の二重の使用法と交換術および貨幣の起源
アリストテレスは、本来の獲得術と貨幣獲得術の違いを事物の二重の使用法(固有の使用と交換)から説き起こし、交換が物々交換から貨幣の導入、そして鋳造貨幣へと発展した歴史的経緯を論じる。
- §1.1257b
小売業としての貨幣獲得術と富の無限の追求
貨幣の登場によって、無限の利益を追求する小売業としての貨幣獲得術が生まれ、本来の家政的な貨幣獲得術との混同が生じる背景が説明される。
- §1.1258a
享楽の追求による能力の転用と家政の役割
肉体的な享楽を追求するあまり、人々があらゆる能力を貨幣獲得のために用いてしまう理由が分析される。また、自然にかなった家政的貨幣獲得術が資源の管理にあること、そして必要な富は自然によって提供されるべきものであることが論じられる。
- §1.1258b-1.1259a
高利貸しの批判と獲得術の実践および独占
アリストテレスは高利貸しを最も不自然な財産獲得であると厳しく批判し、農業や採鉱などの実践的な獲得術の分類、さらに独占やタレスの逸話といった具体的な富の蓄積手段について解説する。
- §1.1259b
妻子への支配のあり方と支配者・被支配者の徳
妻や子供に対する家政上の支配の性質の違いを説明し、さらに奴隷や家族といった人間の持つ徳が支配者と被支配者で同一であるべきかという重要な問いを導入する。
- §1.1260a-1.1260b
支配関係に応じた徳の違いと国制に即した教育
支配するものと支配されるものの間の徳の差異を、魂の構造(理性的部分と非理性的部分)や、自由人と奴隷、男女、大人と子供といった自然な支配・服従関係における能力の違いから説明し、最終的に彼らの教育が国制と不可分であることを示す。
- §2.1260b-2.1261a
理想国制の探求とプラトン的一一化批判
アリストテレスは理想的な政治的共同体を探求するために、既存の優れた国制やプラトンの『国家』の共有制を批判的に検討し始める。彼は特に、ポリスが極端に一一化されるべきだという主張に対し、ポリスは本来、質的に異なる複数の人々から成る共同体であることを強調する。
- §2.1261b
支配の交代と共有制に伴う弊害の指摘
支配の交代が持つ正義とポリスの適度な多様性の必要性を論じ、プラトンの提案する極端な一元化や「すべての人」による共有が、言葉の二義性による誤謬と共有物への配慮の低下という不利益をもたらすことを指摘する。
- §2.1262a
妻子共有制への批判と愛情希薄化の弊害
アリストテレスは、プラトンの『国家』における妻子共有制の議論において、言葉の曖昧さがもたらす不徹底さを批判し、愛情の希薄化や親族間犯罪の増加、不自然な愛情関係の禁止といった弊害を指摘する。
- §2.1262b
妻子共有による友愛の希薄化と財産制度の論点
アリストテレスは、プラトンの提唱する妻子の共有が都市の友愛を稀薄にし、結果的に不和や不敬な行為を増加させることを指摘し、続いて財産の共有・私有に関する議論へ移行する。
- §2.1263a
財産私有と使用の共有による最善の制度
財産の所有と使用について、共有と私有のどちらが最善かを検討する。財産の共有がもたらす人間関係の困難さを指摘し、財産そのものは私有としつつ、その使用を習慣や法律によって共有にすることが最善であると主張する。
- §2.1263b
私有財産の徳的利点と過度な統合の弊害
アリストテレスは、私有財産制度が自己愛や他者への援助(気前の良さ)などの道徳的・心理的活動の基盤であることを論じ、国家の一体化は共有制ではなく教育や慣習を通じて追求されるべきだと主張する。
- §2.1264a
歴史的経験による批判と被統治者階級の規定の欠如
アリストテレスは歴史の重要性を説き、もしプラトンの共有国制が優れているなら既に発見されていたはずだと指摘する。また、大多数を占める農夫などの非守護者階級の財産や家族のあり方が規定されていないことを批判し、それが国家の分裂や傲慢な隷属民の出現を招くと論じる。
- §2.1264b
支配者の固定化の危険と城邦の幸福の分配
ソクラテスの共同国家論における家族と財産の共有がはらむ矛盾を批判し、支配者を固定化することの危険性や幸福の分配の不可能性を指摘する。さらに、後に書かれた『法律』の検討へと移る準備として、『国家』における規定の不十分さを整理する。
- §2.1265a
『法律』篇の国制批判と領土および財産の制限
アリストテレスは『法律』の国制が『国家』の国制と多くの共通点を持ちながら、極端な兵士数や広大な土地要求など実現不可能な設定を含んでいると批判し、さらに財産の制限基準や人口統制の不備について論じる。
- §2.1265b
『法律』篇の人員制限批判と混合政体の分析
アリストテレスはプラトンの『法律』における人口管理の不備や、支配者と被支配者の区別の欠如、財産規定の不整合を批判する。さらに、その目指す中間の国制(ポリテイア)の妥当性を検討し、スパルタの混合国制との比較を行う。
- §2.1266a
『法律』の混合制批判とファレアスの財産平等論
アリストテレスは『法律』の国制が民主制と僭主制の混合とされながら、実際は君主制の要素を欠き、選挙制度において寡頭制に偏っていることを批判する。続いて、ファレアスの提案などをはじめとする、財産の平等に基づく他の国制案の検討を開始する。
- §2.1266b
ファレアスの財産均等化策と人口制限および欲望の教育
ファレアスによる財産平準化の具体的手段と、財産制限に伴う人口抑制、中庸、欲望に対する教育の必要性を論じる。
- §2.1267a
財産均等化の限界と欲望の治療法
アリストテレスは、財産の平等だけでは名誉を重んじる教養人の不満や過度な欲望から生じる大犯罪を防げないことを指摘し、真の解決には哲学と節度が必要であると論じる。また、国防や外交の観点から適切な財産規模を定めることの重要性を指摘する。
- §2.1267b
ファレアス批判の結びとヒッポダモスの三分割国家構想
人間の無限の欲望を抑えるための教育の重要性とファレアスの立法の不十分さを批判した後、市民、土地、法律をそれぞれ三分割する国家モデルを提唱した最初の非政治家ヒッポダモスの構想について紹介を始める。
- §2.1268a
ヒッポダモスの諸制度と市民階層論への批判
ヒッポダモスが提案した裁判、名誉、公費負担などの制度を紹介した上で、彼の市民区分の不整合(非武装市民の奴隷化や、不合理な農民の位置づけ)を批判的に分析する。
- §2.1268b
ヒッポダモス批判と法改正の是非をめぐる論争
ヒッポダモスの土地計画と、裁判における細分化された判決方式に対する批判。さらに、より優れた新しい法律を導入するために祖伝の法を改定すべきかという、法改正の是非をめぐる政治哲学的な議論の提起。
- §2.1269a
法改正の慎重性とスパルタ・クレーテーの隷農問題
アリストテレスはキュメの殺人法の例から古代の法律の不条理さを指摘し、法の変更は可能であるべきとしつつも、安易な変更は不服従の習慣を生み出し法の力を弱めるため極めて慎重であるべきだと論じる。続いて、スパルタとクレーテーの国制を検討するにあたり、良き統治に不可欠な余暇の確保と隷農・農奴制度という課題を提起する。
- §2.1269b-2.1270a
スパルタの隷農支配の困難と女性の放任の弊害
本節では、隣国がペリオイコイを抱える中でのスパルタのヘイローテス支配の困難さを指摘し、次いでスパルタ国制における女性の放任がもたらす富の不平等や人口減少といった弊害を分析する。
- §2.1270b
スパルタの人口政策と監督官および長老会の弊害
本節では、人口増加を促すスパルタの法律が土地の不均等な分割と合わさって貧困を招くこと、およびエポロス(監督官)制度と長老会の欠陥(貧困者の買収可能性や終身制の問題など)を分析している。
- §2.1271a
スパルタの長老会・王制・会食制の欠陥と立法の誤り
アリストテレスは長老会、王制、共同食事(フィディティア)、および海軍長官職に関する制度的な欠陥を分析し、スパルタの立法者が想定した基本方針の誤りを批判する。
- §2.1271b
スパルタの軍事偏重と財政の破綻およびクレータ国制
スパルタの国制が軍事的能力に偏重し余暇を軽視している点や、財政制度の欠陥を批判したのち、それに酷似しつつも未洗練なクレータ国制の起源と地理的環境を論じる。
- §2.1272a
クレータの共同食事と整秩序官の制度的弊害
クレータの国制における共同食事や官職の組織をスパルタのそれと比較する。共同食事の公共性を評価する一方で、特権的な家系から選出されるコスモス(整秩序官)の制度の弊害を鋭く批判する。
- §2.1272b
クレータの無法状態とカルタゴ国制の特徴
クレータ国制におけるコスモスの追放や無法状態といった欠陥と、地勢による防衛の現状を論じたのち、ラケダイモンと多くの共通点を持つカルタゴ国制の特徴と利点について、共同食事や役職の比較を通じて分析を始めている。
- §2.1273a-2.1273b
カルタゴ国制の寡頭的偏向と立法者たち
カルタゴの国制における民主的要素と寡頭制的要素の混交、とりわけ富を基準とした官職の選出や兼職の弊害を分析する。さらに、これまでの優れた国制の検討を終え、政治思想家や立法者たちの分類、およびソローンの事績に関する評価へと移行する。
- §2.1274a-2.1274b
ソローンの改革と古代ギリシアの立法者たち
アテナイのソローンによる改革(民衆裁判所の設置と財産による官職制限)と、それが後の徹底した民主化へと繋がった背景を解説する。次いで、古代ギリシアの様々な立法者(ザレウコス、カローンダス、ピロラオス、パレアス、プラトーン、ドラコーン、ピッタコス、アンドロダマース)の特徴的な法律を列挙して第2巻の国制論を結ぶ。
- §3.1274b-3.1275a
国家の構成要素としての市民の定義
国制の定義にはまず「国家(ポリス)」を定義する必要があり、さらに国家を構成する「市民」の定義が必要となる。本チャンクでは、司法や立法に関わる「無限定の官職」にあずかることこそが市民の最も本質的な条件であることが論じられる。
- §3.1275b
国制による市民定義の差異と血統による規定の難点
アリストテレスは、国制の違いに応じて市民の定義も変化することを指摘し、審議・判決の権能の有無を市民の普遍的な定義として提示する。また、血統による世襲的市民権定義の難点と、クレイステネスの改革のような国制変革時における新規市民編入の正当性の問題を提起する。
- §3.1276a
不当な市民の身分と国制変化における国家の同一性
不当に市民権を得た者であっても、官職を共有していれば市民と認めるべきであることを論じる。次いで、国制が変わったときに国家の同一性は維持されるかという問題について検討し始める。
- §3.1276b
善い人間の徳と優れた市民の徳の一致と相違
国制の変更が国家の同一性を変えることを合唱隊や旋律の例で論じた後、善い人間の徳と優れた市民の徳が同一であるかという問いを船乗りの比喩を用いて考察する。
- §3.1277a
市民の徳と善き人の徳の区別と統治者における一致
アリストテレスは、市民全員が善い人間であることは不可能であるため、市民の徳と善い人間の徳は無条件には同一になり得ないと論じる。ただし、支配者としての特定の市民においては、その両方の徳が一致する可能性が示される。
- §3.1277b
支配と被支配の徳および職人の市民権をめぐる問題
支配者が政治的支配を学ぶためには被支配者としての実務を経験する必要があり、市民の徳は支配と被支配の両方を理解することだが、思慮の徳は支配者にのみ属する。また、機械的職人を市民として扱うべきかという新たな難問が提示される。
- §3.1278a
国制ごとの職人の市民権と基準の相違
アリストテレスは、必要不可欠な労働に携わる職人や労働者が市民に含まれるかどうかは国制のあり方に依存すると論じ、貴族政、寡頭政、民主政における市民権の基準の相違や、歴史的な市民権拡張・制限のプロセスを説明する。
- §3.1278b
国制の定義と共同生活の目的および支配の諸形態
良き人の徳と優れた市民の徳の一致関係を政治家に限定して結論付けた上で、国制の分類へと議論を進める。国制の定義を確認し、人間が共同して生きる目的(美しく生きることと生存そのもの)および支配の諸形態(主奴支配と家族支配)を検討する。
- §3.1279a
正しい国制と逸脱した国制の区別および六つの国制の分類
技術における目的規定を政治支配に適用し、共同の利益を目指す「正しい国制」と支配者の私利のみを目指す「逸脱した国制」の区別を論じます。その上で、支配者の人数(一人、少数、多数)に基づき、王政・貴族政・国制(ポリティ)と、それぞれの逸脱態を分類・定義します。
- §3.1279b
逸脱態の国制と寡頭政および民主政を区別する基準
共和政の軍事的な性質と、正しい国制からの逸脱態が定義され、寡頭政と民主政を区別する真の基準は支配者の人数ではなく貧富の差であることが論じられる。
- §3.1280a
正義の偏りと善く生きることとしての国家の目的
アリストテレスは、寡頭政と民主政の本質的相違が富と貧困にあることを確認し、双方の陣営が主張する部分的な正義の偏りを批判する。そして、国家の真の目的は単なる生存や経済的互助ではなく、善く生きること(徳の実現)にあると論じる。
- §3.1280b
同盟関係の限界と善き生を目的とする国家の本質
アリストテレスは、単なる通商協定や地理的近接性、あるいは不侵害の同盟だけでは「国家」とは言えず、真の国家とは市民の道徳的徳と「善き生」を目的とする家や氏族の共同体であることを明らかにする。
- §3.1281a
国家の最高権力の帰属をめぐる難問と多数者の主権
国家の目的が「善く生きること」にあり、貢献度に応じた配分が必要であることを示した上で、国家の最高主権者をどこに置くべきかという様々な国制の主張に伴う難問を整理し、多数者の支配(民衆主権)が持つ可能性を導入する。
- §3.1281b
大衆の集団的知恵とその統治権への難問
アリストテレスは、多数派が集まることで個別には劣っていても全体として優れた判断力を発揮するという「集団の知恵」を論じ、大衆を議決や官職の監査に参加させる妥当性を主張するが、同時にそれに対する専門家主義的な反論(医師の比喩)を提起する。
- §3.1282a
専門家と使用者の判断および大衆の選挙監査権
本チャンクでは、専門的な技術を持つ者と、その技術について教育を受けた者や実際の使用者との判断力の比較が行われ、大衆が監査や官職選挙のような重大な権限を持つことの正当性が、集団としての総体的な性質から説明される。
- §3.1282b
法の支配の原則と政治的配分における平等の基準
正しく制定された法律が主権を持つべきであるという原則と、それが直面する国制の相対性という難題が確認され、政治的配分においていかなる「平等」や「優越」が考慮されるべきかが、フルート奏者の比喩を用いて論じられる。
- §3.1283a
善の比較不可能性と各集団の統治権要求の根拠
アリストテレスは、性質の異なる善が直接比較不可能であることを論証し、支配権の要求は国家の本質的構成要素に基づくべきだと主張する。そして、富、自由、徳、多数派の各集団がそれぞれ限定的ながら正当な根拠を持っていることを示す。
- §3.1283b
支配の正当性基準の対立と全体的正義に基づく法
さまざまな支配の正当性の基準(富、高貴さ、徳、多数性)が同時に存在する場合の困難を論じ、どの単一の基準も不十分であり、立法においては全体としての公平な市民全体の利益が目指されるべきであることを説明する。
- §3.1284a
卓越した者への処遇と陶片追放の政治的論理
卓越した徳や政治的能力を持つ者は国家の一部ではなくそれ自体が法であり、彼らを排除・抑制する陶片追放や独裁者の助言などは、民主制や寡頭制、覇権国家にも共通する論理であることを論じる。
- §3.1284b
最善の国制における傑出した徳と王制の承認
卓越した個人や集団を排除または抑制する問題はすべての国制に共通する。最善の国制において徳の傑出した個人が現れた場合、排除することも支配することもできず、すべての者が自発的に服従してその者を永続的な王とするほかない。その後、王制に関する検討へと移行する。
- §3.1285a
王制の分類とスパルタ型や選任僭主制などの諸形態
アリストテレスは王制の分類を開始し、第一の種としてスパルタ的な制限された終身将軍職、第二の種として蛮族の専制的だが合法・世襲の王制、第三の種として古代ギリシアの「アイシュムネーテース(選任僭主制)」を提示する。
- §3.1285b
英雄時代の王制と全権王制を含む五種の王制
アリストテレスは英雄時代の王制とその権限の変遷を説明し、王制の四つのタイプを整理した上で、第五のタイプとして家政に比せられる「全権王制」を導入し、最終的に考察すべき主要な王制をラコニア式と全権王制の二つに絞り込む。
- §3.1286a
最善の人による支配と最善の法による支配の比較
「最善の人物による支配」と「最善の法律による支配」のどちらが良いかという根本的な問題を提起し、法律の普遍性と限界、そして大衆による共同決定の利点について論じる。
- §3.1286b
貴族制の優位と政体変遷および王権の世襲と武力
徳を備えた複数人の支配(貴族制)の優位性と国制の歴史的変遷を論じ、さらに王位の世襲問題および法を執行するための王の適正な武力の規模について考究する。
- §3.1287a
全権王制の批判と理性に基づく法の支配の優位
アリストテレスは、自らの意志に従って統治する「全権王制」について検討し、対等な市民からなる都市においては一人の絶対的な支配よりも法の支配の方が自然であり望ましいと論じる。また、法の支配は神と理性の支配であり、人間の支配には情欲という獣性が伴うことを指摘し、技術の類比による絶対王政の擁護を批判する。
- §3.1287b
習慣法の優位と集団統治および民の性質に応じた支配
アリストテレスは、一者支配が引き起こす弊害を指摘し、法(特に習慣法)の支配や集団による統治の利点を論じる。さらに、支配のあり方は支配される側の自然的な性質に適したものでなければならないと説く。
- §3.1288a-3.1288b
政体に適した民の性質と卓越した徳による絶対王制
同等な人々の間での単独支配の弊害と、王制・貴族制・市民制に適した集団の性質を定義した上で、比類なき徳を持つ者が存在する場合の絶対的王制の正当性を説き、最善の国制の探究へと移行する。
- §4.1288b-4.1289a
政治学の課題と国制および法律の考察対象
あらゆる技術や学問が対象とするジャンル全体を扱うように、政治学も最善の国制のみならず、与えられた前提において実現可能な最善の国制や一般に適用しやすい国制、および法律との関係を体系的に扱うべきであることを論じ、国制と法律の定義を明確化しつつ、今後の議論の枠組みを提示する。
- §4.1289b
逸脱した国制の優劣と国制が複数存在する原因
アリストテレスは僭主制、寡頭制、民主制の優劣についてプラトンの説を批判的に検討し、今後の探求計画を整理した上で、国制が複数存在する原因が国家を構成する諸部分の多様性にあることを指摘し始める。
- §4.1290a
国家の構成部分の多様性と国制区分の再検討
国制の多様性は国家を構成する部分の多様性に起因することを論じ、国制を単純に二分する通説を批判して、正しい区分の方向性を示すとともに、民主制と寡頭制の定義における通俗的な誤りを指摘する。
- §4.1290b
民主制と寡頭制の本質的規定と器官の比喩
民主制と寡頭制の真の定義は、多数派・少数派の支配ではなく、自由な貧困層と少数の富裕層の支配にあることを明確にし、国家の多様性を動物の器官の組み合わせになぞらえて説明し始める。
- §4.1291a
国家を構成する諸階級とプラトン国家論の批判
アリストテレスは国家を構成する様々な部分(手工業者、商人、労働者、戦士、富裕者、官吏、審議や裁判を担う者)を列挙し、プラトンの『国家』における国家の起源の議論を不十分であるとして批判する。
- §4.1291b
貧富の対立と民衆・名士の区分および最初の民主政
国家を構成する人々のうち、他の機能は同一人物が兼ねられるが、富裕と貧困は兼ねられないため、富裕者と貧困者が国家の最も対立する基本的部分となる。アリストテレスは民主政と寡頭政の多様な形態を規定するため、まず民衆と名士の具体的な諸区分を提示し、次いで平等を重んじる最初の民主政の形態を説明する。
- §4.1292a
民衆指導者による専制的な民主政と法の支配
法律を超越して民衆指導者が支配し、民会決議が万事を決する民主政の形態を論じ、これが僭主政に類似する専制的なものであること、そして法治のない体制は「国制」とは呼べないことを解き明かし、さらに寡頭政の第一の形態の解説へ移行する。
- §4.1292b
寡頭政の諸形態と法と運用の乖離
アリストテレスは寡頭政の残りの諸形態(王朝政を含む)を定義し、法律と実際の運用の乖離について言及したのち、民衆の構成部分の参与形態の違いから民主政の具体的な諸形態が発生する仕組みを論じる。
- §4.1293a
第四の民主政と寡頭政の四分類および貴族政
アリストテレスは、財政的余裕と都市の拡大を背景とした究極の民主政(法律ではなく大衆が支配する形態)と、富の集中度や法との関係性に基づく寡頭政の4つの段階的形態を提示し、さらに民主政と寡頭政以外の国制として貴族政と「ポリテイア(国制)」に言及する。
- §4.1293b
貴族政の分類と混合国制ポリテイアの本質
アリストテレスは、真の貴族政と広義の貴族政の形態を分類した上で、寡頭政と民主政の混合国制である「ポリテイア」の本質と、僭主政の配置について定義している。
- §4.1294a
良好な法秩序の定義とポリテイアの創設法
アリストテレスは、良好な法秩序(エウノミアー)の定義を明らかにし、ポリスを構成する自由・富・徳の要素の混合割合によって「ポリテイア」と「貴族政」が区別されることを論じる。さらに、民主政と寡頭政の要素を組み合わせて「ポリテイア」を具体的に構築する手法の第一のものを示す。
- §4.1294b
民主政と寡頭政の混合方法とスパルタの実例
民主政と寡頭政を混合して国制を組織する3つの具体的手段を示し、その良好な混合の基準をスパルタの実例を挙げて論じる。
- §4.1295a
僭主政の三分類と中庸に基づく最善の国制
アリストテレスは僭主政の三つの形態を整理し、特に第三の極端な僭主政の不当性を指摘したうえで、多くのポリスや人々にとって実現可能で、かつ中庸に基づいた「最善の国制と生活」について探究を開始する。
- §4.1295b
三つの階層と中等層が支配的な国制の優位
ポリスにおける三つの階層(富裕層、貧困層、中等層)のうち、中等層こそが最も理に従いやすく極端な不平等を避けることができるため、中等層が優勢なポリスにおいて最も安定し立派な統治が実現すると主張する。
- §4.1296a
党争を防ぐ中庸の国制の安定性と優れた立法者
著者は中庸の国制が最も党争から免れている最善のものである理由を、富裕者と貧困者の二極化が極端な政治体制(僭主制など)を生むことや、歴史的な優れた立法者たちが中庸な階層に属していたことを挙げて論じる。
- §4.1296b-4.1297a
質と量の均衡と寡頭制・民主制の欺瞞策
中庸の国制が最善であるという前提のもと、国制の望ましさは中庸からの距離によって決まることを示し、国制の維持には質と量の均整が必要であることを論じる。さらに、立法者が中庸な人々を重視すべきであることを説明し、寡頭制と民主制が民衆や富裕者に対して用いる各種の欺瞞的策略と、それらを排して公正な混合国制を作る方法を提示する。
- §4.1297b
重装歩兵層の国制とあらゆる国制の三つの部門
武器を所有する市民に基づく国制における財産資格の基準について議論し、ギリシア諸ポリスが騎兵主体から重装歩兵へと軍事的・政治的に拡大した歴史を説明した上で、あらゆる国制を構成する三つの根本的な部門(審議、官職、裁判)の分析を開始する。
- §4.1298a
審議部門の権限と民主制・寡頭制における形態
アリストテレスは、すべての国制を構成する三つの要素(審議、官職、司法)のうち、特に「審議を行う部分」に焦点を当て、その権限範囲を明確にした上で、全市民が審議に参加する「民主政的」な四つの方法と、一部の市民のみが審議する「寡頭政的」な方法のバリエーションを詳しく分析する。
- §4.1298b-4.1299a
審議部門の運用と官職の定義
審議を行う部分の規定について、貴族政や制限民主政(ポリティア)におけるあり方、および民主政や寡頭政における効果的な審議の運用方法を説明した後、国制における「官職」の定義と役割についての新たな分析を開始する。
- §4.1299b
小国家における官職の統合と固有の統治機関
アリストテレスは、人口の少ない小国家における官職の統合の必要性を「串付きランプ台」に例えて説明し、官職の地理的・対象的な分類や、特定の国制に固有の機関(予備審議官や評議会)の機能の違いを論じる。
- §4.1300a
特殊な官職と官職任命方式の三基準による分類
民会出席者への手当支給による評議会権能の無効化や、女性・児童の監督官という特定の国制に固有の官職を挙げた後、官職の任命方式を「誰が」「誰から」「どのように」という三つの基準の組み合わせから分類・分析する。
- §4.1300b-4.1301a
裁判所の種類と裁判員の選定方式
アリストテレスは官職の任命方式における貴族政・寡頭政の型を整理し終えた後、支配権の第三の部分である司法部門(裁判所)の分類に入る。裁判所の相違を「誰から、何について、どのように」という三基準に求め、八つの裁判の種類を列挙した上で、各国制に応じた裁判員の選定方式を分類する。
- §5.1301a-5.1301b
内紛の原因と平等の二つの概念
アリストテレスは国制の崩壊と変革、およびその保存手段についての考察を開始し、内紛(スタシス)の根本原因が「平等」に対する二つの異なる理解(数的な絶対的平等と、価値に応じた比例的平等)の対立にあることを説明する。
- §5.1302a
二つの平等の調和と内紛の三つの原因
アリストテレスは数的な平等と価値に応じた平等の双方の使い分けの必要性を論じ、民主政が寡頭政より安定している理由を説明した上で、国制変革と内紛の原因を「人々の心的状態」「追求する目的」「内紛を誘発する具体的契機」の三つの観点から分析し始める。
- §5.1302b
内紛と国制変革を誘発する具体的諸原因
内紛や国制変革を誘発する具体的な諸原因(傲慢、利益、名誉、優越、恐怖、軽蔑、不釣り合いな増大など)を挙げ、それらがどのように内紛へとつながるかを歴史的な実例を交えて説明する。
- §5.1303a-5.1303b
不釣り合いな増大や異民族性と内紛の発生
不釣り合いな増大、偶然の出来事、民族的な非類似性、些細な変化などの要因がどのように国制変革を招くかを論じ、さらに指導者間の個人的な紛争が国家全体の内紛に発展する具体例を示す。
- §5.1304a-5.1304b
私的な諍いと特定勢力の台頭による国制変革
デルポイやミュティレネなどの具体例を通じて、婚姻や相続に関する私的な諍いが国家規模の内紛に発展する様子を説明し、さらに一部の階層や機関の台頭、あるいはデマゴーグの横暴が国制の変革や崩壊を引き起こす要因となることを論じる。
- §5.1305a
民衆煽動家による民主政の変革と僭主政の発生
本チャンクでは、デマゴーグが名士たちを迫害することで自衛のための団結を招き、民主政の崩壊に至るプロセスを説明する。さらに、古代における軍事的能力を持つデマゴーグによる僭主政の樹立と、現代の弁論術に依存するデマゴーグの違い、および民主政や寡頭政の変革原因を分析する。
- §5.1305b
寡頭政が変革される内部要因と支配層の分裂
寡頭政が変化する原因として、官職から排除された富裕層による内部からの打倒や、支配層による内外への民衆扇動行為、また、私産を浪費した一部の構成員による変革の希求などが論じられる。
- §5.1306a-5.1306b
寡頭政の変革をもたらす諸要因と貴族政の内紛
財産喪失や派閥対立、戦争や不信による寡頭政の崩壊・変化要因を説明し、さらに貴族政における内紛が名誉の不平等や貧富の格差などから生じることを示す。
- §5.1307a
貴族政の内紛要因と混合の崩壊による国制転換
貴族政において有力者がさらに権力を得ようとする野心や、貧困層による土地分配要求などが内紛の原因となることを論じる。また、ポリティアと貴族政が正義から逸脱し、民主政と寡頭政の混合のバランスが崩れることで国制が崩壊・移行する過程を、トゥリオイやロクロイの具体例を挙げて説明する。
- §5.1307b-5.1308a
貴族政の緩やかな瓦解と国制を維持する諸方策
本節では、貴族政が小さな変更の積み重ねによって徐々に瓦解していく過程がトゥリオイの事例とともに説明される。続いて、国制の維持・防衛策として、不法な行為の初期段階での防止、非市民や大衆への公正な待遇、市民間の平等の維持、危険に対する警戒心、および財産資格の調整が論じられる。
- §5.1308b-5.1309a
国制維持の具体策と支配者に求められる資質
財産査定の定期的改定、個人の勢力膨脹の抑制、公職による私腹肥やしの禁止といった、国制維持のための具体策が論じられ、支配者に求められる3つの資質が示される。
- §5.1309b
官職適任者の選定基準と国制の中庸
アリストテレスは、優れた適任者を選択する基準として、必要な専門能力と一般的な徳のどちらが稀少であるかを見極めるべきだと説き、鼻の変形の比喩を用いて、国制においても極端を避けて中庸を維持することの重要性を強調する。
- §5.1310a-5.1310b
国制に応じた教育と君主政の起源
民主政と寡頭政における極端な法律や行動(デマゴーグや寡頭派の誤り)を批判し、最善の国制保存策として国制に適合した教育の重要性を説く。続いて君主政(王政と僭主政)の分析に入り、その起源や発生経路の違いを歴史的実例とともに解説する。
- §5.1311a
王政と僭主政の相違および君主への攻撃の動機
本チャンクでは、王政と僭主政の目的や守衛方法の相違、僭主政が寡頭政と民主政双方の悪徳を併せ持っていることが示される。さらに、君主政に対する攻撃や陰謀の動機が、特に傲慢への報復を中心とした事例と共に論じられる。
- §5.1311b-5.1312a
個人的怨恨や軽蔑による君主襲撃の具体例
君主に対する個人的な怨恨(傲慢、身体的辱め、恐怖)による攻撃の事例と、軽蔑や名誉心(野心)による襲撃の動機について論じている。
- §5.1312b-5.1313a
王政と僭主政の崩壊原因および維持の方法
僭主政と王政が崩壊する様々な内部・外部の原因を分析し、王政が権力を制限して穏健化することで長期保存される一方、僭主政は強圧的な抑圧策によって維持される仕組みを論じている。
- §5.1313b-5.1314a
僭主政の強権的維持策と王政的偽装の手法
アリストテレスは、被支配者間の信頼を奪い、彼らを貧困や多忙に陥らせて監視するという、僭主政を維持するための伝統的な強権的手段を列挙する。その上で、実質的な権力自体は手放さずに、外面を王者らしく装うことで僭主政を長持ちさせるという、正反対の温健な維持方法を提示する。
- §5.1314b-5.1315a
王政模倣による僭主政の維持と統治術
アリストテレスは、僭主政を維持するための第二の方法、すなわち実権を守りつつも王政を模倣して支配する具体的な統治術(財政公開、威厳の保持、信仰心、功労者の表彰、および暗殺の防備など)を論じている。
- §5.1315b
僭主政の短命性と例外的に長期存続した事例
僭主が支配を維持するための心構えの結論と、寡頭政や僭主政が基本的に短命であることを示し、例外的な長命の僭主政の事例を挙げてその成功要因を分析し、国制の崩壊と保存に関する議論を締めくくる。
- §5.1316a-5.1316b
プラトンの国制変遷論に対する批判
アリストテレスはプラトンの『国家』における国制の変遷理論について、歴史的な実例を欠いている点や、理論的な整合性の矛盾を挙げて詳細に批判する。
- §6.1316b-6.1317a
国制の諸要素の結合と民主政の基本原理
著者はこれまでに検討した国制の諸要素やその崩壊・維持を踏まえ、それらの異なる要素の組み合わせによって生じる様々な中間的国制の可能性を示す。さらに、各種民主政を構築または是正するための方法として、民主政に随伴する諸特徴や前提となる「自由」の原理について考察を開始する。
- §6.1317b
民主政における自由の定義と制度的諸特徴
民主政における「自由」の定義として、交代での支配および自己の望む通りの生活を挙げ、これらから演繹される民主政の諸特徴(抽選制、財産資格の排除、短期任期、公的な手当支給など)を体系的に列挙する。
- §6.1318a
民主政における平等の実現と財産資格の合算方式
古い体制から残された官職の抽選化を含む民主政の共通の定義を確認した上で、民主的平等と財産ベースの平等をいかに調和させるかという問題と、双方の合意を得るための財産資格の合算による決定方式を論じる。
- §6.1318b
最善の形態としての農業的民主政とその制度設計
平等と正義の実現の難しさを指摘した上で、最善かつ最古の民主政の形態として、農業に従事する民衆が土台となる民主政を挙げ、その構造と有益な制度設計について論じる。
- §6.1319a-6.1319b
農民・牧民の民主政と極端な民主政の組織化
アリストテレスは最善の民主政において、農民や牧民が有する生活様式や地理的条件がもたらす安定性を説き、次いで極端な民主政における制度的特徴とその保存のための立法上の課題を論じる。
- §6.1320a-6.1320b
民主政の安定策と寡頭政の構築法
アリストテレスは極端な民主政を安定させるため、裁判を通じた安易な財産没収を控えて神聖財産とすることや、貧民への一時しのぎの現金分配を避け、土地購入や生業の元手となる資金を一括して分配することを提案する。後半ではこれに対応する形で寡頭政の構築方法を論じ、段階的に厳格化する資産資格による統治と、最悪の寡頭政が内包する脆弱性ゆえの厳重な警戒の必要性を示す。
- §6.1321a
軍事力構成に応じた寡頭政の防衛と公職の設計
民主政と寡頭政の根本的な防衛手段の違いを論じ、軍事力(騎兵、重装歩兵、軽装兵など)の構成比率に応じた防衛体制や、寡頭政において民衆を宥めるための公職と公共奉仕のあり方を提案する。
- §6.1321b
国家に不可欠な官職の分類と基礎的職務
民主政と寡頭政の組織方法に関する議論を終え、著者(アリストテレス)は国家に不可欠な官職と、秩序および整飾のための官職の区分に着手する。市場管理、市街管理、地方管理、財務、および文書記録の各官職について具体的に説明し、刑の執行と拘留を司る最も困難な官職の導入に至る。
- §6.1322a
刑執行と身体拘留を司る官職および軍事官職
有罪判決の執行や身体拘留を司る官職の困難さと、憎しみを避けるための制度的工夫(分権や交代)について論じ、続いて国家防衛や軍事を司るより高い地位の官職について述べる。
- §6.1322b-6.1323a
主要な官職の分類と政体による差異
アリストテレスは、軍事、財務監査、国家の最高決定機関、神事などの様々な不可欠な官職を整理し、さらに繁栄した国家に固有の秩序維持を目的とする特殊な官職を列挙する。また、これらの官職や機関が、どの国制(民主政、寡頭政、貴族政)と結びついているかを分析する。
- §7.1323a-7.1323b
最善の生き方と三種の善による幸福の定義
最善の国制を論じる前提として、幸福な人生における最善の生き方を定義する。外部の善・身体の善・魂の善のうち、魂の善(徳や知慮)こそが最も価値が高く幸福の真の核心であること、そして国家の幸福もまた同様の基準に従うことを論証する。
- §7.1324a
国家と個人の幸福の一致と二つの生き方
アリストテレスは、個人と国家の幸福が同一であることを示した上で、探究すべき課題を整理し、政治的・活動的な生き方と哲学的・観照的な生き方のどちらがより望ましいかという議論を提示する。
- §7.1324b
対外的な支配を目的とする国制への批判
隣人の支配を国制の唯一の目的とする見解を挙げ、マケドニアやスキタイなどの戦士的習慣を紹介した上で、合法的でない支配や、自然な支配・被支配の区別に基づかない全般的支配を求めることは、本来の政治家や立法者の役割ではないと批判する。
- §7.1325a
活動としての幸福と政治的生活をめぐる論争
最善の国制を自足した国家の幸福と関連づけて説明し、活動的な政治生活と観照的な自由人の生活のどちらが最善であるかという論争を導入して、幸福が本質的に活動であることを確認する。
- §7.1325b
実践的生活の優位と理想国家の前提条件
幸福とよく行うこと(善き活動)の同一性から、実践的な生が国家と個人の双方にとって最善であることを明らかにし、他者との関係を要しない思考や観照自体も極めて実践的であると論じる。続いて、理想国家を設計するための前提条件(人口、領土など)の検討へと移行する。
- §7.1326a
理想国家における適正な人口規模と秩序
アリストテレスは、祈願による理想の国家を構想する前提として市民の人口規模や領土の適正さを論じ、国家の偉大さは人口の多さではなく、その機能的な能力と制限された秩序によって測られるべきだと主張する。
- §7.1326b
国家の適正な人口規模の限界と領土の条件
国家の適切な規模は、一目で見渡すことができつつ政治的自足性を達成できる人口規模であるべきであり、領土もまた自立と余暇を可能にしながら、防御と進出に容易な地形的条件を備えていなければならないことを論じる。
- §7.1327a
理想的な領土の条件と海へのアクセスの是非
理想的な領土の条件として見渡しやすさと交通の便が挙げられ、さらに秩序ある城邦にとって海と交わることが有益か否かの議論と、その対策としての港湾施設の管理について論じられる。
- §7.1327b
海軍力の適正規模と市民に求められる本性
アリストテレスは海軍力の適正規模と水夫の動員方法について論じ、続けて市民に求められる本性を、気概と知力の調和という観点から諸民族の比較を通じて説明する。
- §7.1328a
気概の働きと城邦の必要条件と構成部分
気概の持つ愛と怒りの性質についてアルキロコスの詩などを引いて詳述し、続いて城邦の存在に不可欠な必要条件と、城邦の真の構成部分とを区別して論じ始める。
- §7.1328b
城邦に必要な六つの機能と市民の職業
城邦の自足性を構成するために不可欠な6つの活動(食物、技術、武器、財貨、祭司職、裁判)を定義し、最善の国制においては、市民は職人、商人、農民の生活を送るべきではないと論じる。
- §7.1329a
年齢に応じた市民の職務分担と財産および祭司職
徳の修得と政治的生活のための「余暇」の必要性を論じ、軍事と審議の役割を同一市民が年齢に応じて交代で担うべきこと、財産は市民にのみ帰属すべきこと、そして引退した市民が祭司職を務めるべきことを規定する。さらに、国家を機能別・階層別に分割する制度は古代からの伝統であることを指摘する。
- §7.1329b
身分別と共同食事制度の起源および土地配分
アリストテレスは、階層の分離や共同食事がエジプトのセソストリスやイタリアのイタリアスによって古代に創始された歴史を振り返り、技術や政治制度の古代性を指摘するとともに、今後の土地分配と農民のあり方の議論へと移行する。
- §7.1330a
公有地と私有地の分割配分と都市の立地条件
アリストテレスは理想的な国家における領土の分割方法について論じ、共同食事や神々への祭祀を維持するために、公有地と私有地をそれぞれ二分して市民全員が平等かつ防衛上安全に土地を所有すべきであるとし、その耕作には性質の適した奴隷やバルバロイのペリオイコイを用いるべきだと主張する。また、都市の立地は健康を最優先とする4つの配慮に基づき選ばれるべきだと述べる。
- §7.1330b
都市の水源と街区設計および城壁防衛の必要性
アリストテレスは、都市の立地における軍事的・政治的要件として健康的な水と水源の確保を挙げ、国制に応じた要塞のあり方、住宅配置における新旧の方法の調和、そして都市防衛における城壁の不可欠性を説く。
- §7.1331a
城壁の必要性と神殿やアゴラなどの施設配置
新兵器の発達を踏まえて城壁の必要性を再確認した上で、共同食事を城壁の衛所に置くことや、神殿、最高行政官の共同食事場、「自由な広場(アゴラ)」、高齢者の体育場などの機能的・象徴的な配置計画を論じる。
- §7.1331b
商業アゴラの配置と幸福のための目的と手段
アリストテレスは、実務と売買のための商業アゴラの設置場所を定め、地方における役所や神聖な場所の配置について言及する。続いて理想的な国制の探究に移り、あらゆる人間の幸福に必要な二つの条件、すなわち正しい目的の設定と適切な手段の選択を提示する。
- §7.1332a
幸福の定義と市民の徳を形成する三要素
幸福を徳の完全な現実化と定義した上で、最善の国制の実現には運に依存する外的善だけでなく、立法者による意図的な教育が必要であり、市民の卓越性は本性・習慣・理性の三つによって形成されると論じる。
- §7.1332b
教育による三者の調和と年齢に応じた交代統治
人間は本性、習慣、理性の三者の一致によって善き者となり、そのための教育が必要とされる。また、市民の間で支配者と被支配者を固定する絶対的格差がない以上、自然な年齢差に基づく交代制統治が正義に適うとされる。
- §7.1333a
魂の区分と教育が目指すべき活動の序列
教育が、支配と被支配の交代という国制のあり方にどのように対応すべきかを論じ、魂の区分(理性的な部分と従属的な部分、実践理性と観照理性)に基づいて、行為や目的の序列(余暇や平和、高尚なものが最上であること)を規定する。
- §7.1333b-7.1334a
軍事優先の国制批判と平和や余暇のための徳
アリストテレスは、スパルタのように軍事力や他者の支配のみを目的に据える国制とその立法者を批判し、戦争は平和のため、多忙は余暇のためにあるべきだと論じる。そして、真に幸福なポリスを形成するためには、余暇を正しく過ごすための徳(正義、節度、知恵)を市民に教育する必要があると主張する。
- §7.1334b
教育の順序と婚姻に関する立法
ラケダイモン人の徳のあり方の限界を確認した後、教育において「素質」「習慣」「言論」がどのように調和すべきか、また身体と魂の非理性的・理性的部分の発達順序に従った教育の順序を整理し、その第一歩としての適切な婚姻(年齢や能力の調和)の立法について論じる。
- §7.1335a
男女の適切な結婚年齢と早婚の弊害
親子の年齢差が近すぎることの不都合や、早婚がもたらす子供の発育不良・母親の健康被害などの弊害を論じ、男女の最適な結婚年齢(女性は18歳前後、男性は37歳前後)を提示する。また、結婚の季節は冬が適していることや、医師や自然研究者の見解に留意すべきことを述べる。
- §7.1335b
子の生殖に適した身体的条件と生育制限
アリストテレスは健康な子供を産むための親の身体的条件(過度な運動や労働を避けた中間の状態)を論じ、妊婦の生活規律や、過剰な人口を抑制するための中絶、そして精神の全盛期(50歳頃)に基づいた生殖可能年齢の制限と夫婦間の貞操の重要性を規定する。
- §7.1336a
幼児期の養育と五歳までの身体訓練や遊び
幼児の養育について、乳の豊富な食事や寒冷への適応、身体を動かすことの重要性を説き、五歳までは学習や労働を避け、自由人にふさわしい遊びを通じて将来の活動を模倣させるべきであると論じる。
- §7.1336b-7.1337a
青少年の卑俗からの保護と教育の段階
アリストテレスは若者を卑俗さから守るために、わいせつな言動、絵画、演劇などを都市から排除すべきだと説く。その上で、教育の年齢区分と、教育が公的に行われるべきかという問いを提示する。
- §8.1337a-8.1337b
教育の公共性と自由人にふさわしい学習科目
アリストテレスは、教育を国制に適合させ共同で行うべきであると論じる。また、現在の教育を巡る議論の混乱と、自由人にふさわしい学習と卑俗な学習の区別、およびその主要科目(読み書き、体育、音楽、図画)について考察を始める。
- §8.1338a
高尚な余暇の過ごし方と音楽教育の意義
アリストテレスは、余暇を過ごすこと(幸福)が人間の真の目的であり、音楽は実用性のためではなく自由人の高尚な余暇活動(ディアゴーゲー)のために教育されるべきであることを論じ、さらに読み書きや図画などの実用的な科目にも、実用を超えたより広い教育的意義があることを指摘する。
- §8.1338b
体育教育のあり方と過度なスパルタ式訓練への批判
図画は身体の美の理解にも役立ち、有用性のみを求めるべきではないこと、そして体育の必要性を示す。また、スパルタなどの過度の訓練や野獣化が勇気の養成に失敗していることを批判し、美(高貴さ)に基づいた正しい体育のあり方を論じる。
- §8.1339a
体育訓練の適切な時期と音楽教育の諸目的
前半では若年期における体育の弊害と、思春期以降の適切な訓練開始時期および知性と身体の負荷の調和を説き、後半では音楽教育の目的(遊び、道徳形成、高雅な余暇)をめぐる諸疑問を提示する。
- §8.1339b
音楽の実技学習の要否と音楽の三つの機能
音楽を自ら演奏して学ぶ必要があるのかという疑問に対し、他人の演奏を聴くことで十分ではないかというスパルタ人の例や神々の見解が示され、次に音楽の三つの機能(教育、遊び、高雅な余暇活動)が検討され、それらが互いに関連していることが示される。
- §8.1340a
音楽による魂の性格形成と感情の模倣
アリストテレスは、音楽が単なる休息や娯楽にとどまらず、魂のキャラクターを形成する力を持っていることを、オリンポスの旋律による熱狂やリズム・旋律の感情模倣を通して論じる。また、視覚芸術と異なり、音楽はキャラクターそのものの模倣を含むため、教育において極めて重要であるとする。
- §8.1340b
調子とリズムの影響および音楽実技習得の意義
音楽の様々な調子やリズムが魂に与える道徳的影響について議論を完了し、次に若者が実際に歌や演奏といった実践的な訓練を通じて学習すべきか否かの問題に移行する。実践への参画が音楽の優れた判定能力を育み、またその訓練が若者に対する適切な活動の場を提供することを指摘する。
- §8.1341a
教育における楽器の選択とアウロスの排除
アリストテレスは音楽教育における旋律、リズム、楽器の選択基準を論じ、教育にふさわしい節度を求めるとともに、アウロスなどの専門的・熱狂的な楽器の排除をその歴史的背景とともに説明する。
- §8.1341b
専門的演奏の否定と音楽がもつ多様な効用
アテナのアウロス投棄に関する神話を解釈して専門的音楽教育を非難した後、第7章に入りハルモニアとリズムの教育的分類に着手し、音楽が持つ多角的な効用(教育、カタルシス、消遣、休息)を提示する。
- §8.1342a-8.1342b
教育に適した旋律と調子の選択
アリストテレスは各種のハルモニアを教育やカタルシスなどの目的に応じて使い分けるべきだと主張し、ドリア調を教育に最適とする一方で、ソクラテスがフリギア調を残しつつアウロスを退けた矛盾を批判する。また、教育における三つの基準として「中間」「可能」「ふさわしいこと」を提示する。
