底本
Aristotle. Aristotelis De arte poetica liber. Kassel, Rudolf, editor. Oxford, UK: Clarendon Press, 1965 (printing).
原文データ出典
Perseus Digital Library · CC BY-SA 4.0
元ファイル: urn:cts:greekLit:tlg0086.tlg034.perseus-grc2
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要旨
アリストテレスによる本作は、詩作の本質を「模倣(ミメーシス)」と定義し、その諸ジャンル、特に悲劇と叙事詩の劇的構造や技法を体系的に分析した論考である。まず、模倣の手段、対象、方式の違いによって文芸を分類し、詩作の歴史的発展や悲劇・喜劇の起源をたどる。続いて悲劇を定義し、それを構成する六つの要素を挙げ、中でも因果関係に基づくプロット(筋)が作品の本質として最も重要であると主張する。さらに、どんでん返しや発見といったプロットの要素、緊密な統一性、恐怖と憐れみの感情を正しく呼び起こす条件など、優れた悲劇の要件を詳細に規定する。後半では、具体的な創作の指針、言語表現や比喩の規則、そしてホメロスの作品に代表される叙事詩の構造について論じる。最終的に、作品に対する批判への解決策を提示した上で、悲劇が叙事詩よりも優れた模倣芸術であることを証明して論考を締めくくる。
目次
28 チャンク
引用方式:chapter.subchapter
- §1.1-1.14
詩作の本質としての模倣と媒介による分類
アリストテレスは詩作の本質が「模倣」であることを提示し、多様な文芸や音楽芸術を模倣の手段(リズム、言葉、調和)の違いに基づいて分類する。
- §2.1-2.7
模倣の対象となる人物の性格と詩のジャンル
詩が模倣する対象である「行為する人々」には、優れた者、劣った者、我々と同等の者の三つの区分があることを示し、それが絵画や詩の諸ジャンル(悲劇と喜劇など)の区別の基準となることを説明する。
- §3.1-3.6
模倣の様式とドラマの起源をめぐる説
模倣の第三の相違である「模倣の方式(いかに)」について、叙述(語り手)と劇(行為者の提示)という選択肢を提示する。また、悲劇と喜劇のドリス起源説について、語源学的な根拠を検討する。
- §4.1-4.21
詩の二つの起源と悲劇の歴史的発展
詩作の二大起源(模倣の本能、調和とリズム)について論じ、詩人の性格に応じた叙事詩や諷刺詩への分化、器具としてのホメロスの功績、そして悲劇と喜劇が初期の即興からいかに発展したか、特に悲劇の俳優数や韻律等の技術的進化の歴史を説明する。
- §5.1-5.11
喜劇の起源と性格および叙事詩と悲劇の比較
アリストテレスは喜劇の定義と起源、そして歴史的発展について簡潔に述べた後、叙事詩と悲劇の共通点と相違点(韻律、叙述形式、作品の長さなど)を整理している。
- §6.1-6.12
悲劇の定義と六つの構成要素および筋の優位
悲劇の定義を示し、それを構成する6つの要素(プロット、性格、表現、知性、視覚的演出、歌)を挙げ、中でもプロットが最も重要であることを主張する。
- §6.13-6.28
悲劇の魂としての筋と六つの構成要素の順位
アリストテレスはプロットが悲劇の本質(魂)であり、性格よりも重要であることを絵画の例を交えて論じる。さらに悲劇の六つの構成要素であるプロット、性格、知性、表現、作曲、視覚的演出について、その優先順位と定義を解説する。
- §7.1-7.12
筋の全体性と適切な大きさの限界
悲劇の最も重要な要素であるプロットの大きさ(長さ)について、その美的要件(一望可能であり記憶しやすいこと)と、好運から不運(あるいはその逆)への運命の転換を描くのに適した本質的な限界を規定する。
- §8.1-8.4
筋の統一性とホメーロスの構成法
プロットの統一性(単一性)は一人の主人公を描くだけでは達成されないことを論じ、ホメーロスが主人公の全生涯ではなく一つの行為を中心に作品を構成した卓越性を称賛する。
- §9.1-9.13
詩と歴史の差異と可能性の模倣
詩の目的は実際に起こったことではなく、もっともらしさと必然性に従った「起こりうること」の模倣にあり、それゆえ詩は歴史よりも普遍的で哲学的であると論じ、プロットにおける緊密な因果関係と驚異性の重要性を説明する。
- §10.1-10.4
単純な筋と複雑な筋の区別と因果的必然性
アリストテレスはプロットを単純なものと複雑なものに分類し、前者はペリペテイア(どんでん返し)もアナグノーリシス(発見)もなく変化が生じるもの、後者はそれらを伴うものと定義する。また、これらの変化は前の出来事から因果関係を伴って必然的・合理的に生じるべきであり、単なる時間的前後関係とは区別されるべきだと主張する。
- §11.1-11.10
筋の三要素である逆転と発見と受難
アリストテレスは悲劇の筋(プロット)の三つの構成要素、すなわち「どんでん返し」(ペリペテイア)、「発見」(アナグノーリシス)、そして「受難」(パトス)を定義し、それぞれの実例や特徴について解説している。
- §12.1-12.10
悲劇の量的構成要素と合唱歌の区分
悲劇を量的・構成的な観点から分割した諸部分(プロローグ、エペイソディオン、エクソドス、および合唱歌とその内訳)を定義し、説明している。
- §13.1-13.13
最善の筋の条件と主人公の過ちによる没落
アリストテレスは最も優れた悲劇にふさわしいプロットの条件を検討し、有徳な者の不当な没落ではなく、中間の人物が重大な過ちによって幸福から不幸へ至る「一重の構成」が最上であると論じる。また、エウリピデスの不幸な結末を擁護し、勧善懲悪のような「二重の構成」は観客の好みに迎合した第二位のものであると説明する。
- §14.1-14.21
恐怖と憐れみを生む筋の構成と破滅的行為の類型
アリストテレスは、悲劇の恐怖や憐れみは視覚効果ではなくプロットの構成自体から生じるべきだと論じる。また、身内同士の凄惨な行為を巡る4つの選択肢を分析し、行為をなす前に身内と気づき思いとどまる構成が最上であると結論づける。
- §15.1-15.12
人物の性格に求められる四つの要件と筋の解決
アリストテレスは悲劇における人物の性格(エートス)が備えるべき四つの条件(善良さ、適合性、類似性、一貫性)を挙げ、各条件の意義と具体例を示す。また、劇の解決は偶然的な機械仕掛けによるのではなくプロット内部から必然的に生じるべきであると論じる。
- §16.1-16.12
認知の分類とプロットから生じる最善の認知
アリストテレスは「認知(発見)」の様々な種類を分類し、目印、詩人の作為、記憶、推論、観客の誤推論に基づく演出を例示し、プロットの展開自体から生じる認知が最も優れていると論じる。
- §17.1-17.11
プロットの視覚化と普遍的骨組みからの挿話の展開
詩人がプロットを構成し推敲する際の具体的な指針を述べ、目の前に出来事を描き感情を共有することの重要性を説く。またプロットの普遍的な骨組みをまず設定し、そこにふさわしい挿話を付け足していくプロセスを『イピゲネイア』や『オデュッセイア』を例に説明する。
- §18.1-18.20
結びと解きおよび悲劇の四類型と合唱隊の役割
アリストテレスは悲劇を構成する二大要素である「結び(糾)」と「解き(解)」を定義し、悲劇の四つの部類を解説する。また、悲劇が叙事詩的な多重プロットを避けるべきであることを警告し、合唱の有機的な統合の重要性を論じる。
- §19.1-19.9
思想の定義と語り口における演技形式の除外
悲劇の構成要素のうち「思想」と「語り口」の検討に移り、「思想」は『修辞学』に委ねつつその定義と区分を示し、「語り口」のうち演技法に属する表現形式は詩作術の対象外であることを論じる。
- §20.1-20.13
語り口を構成する八つの部分と音節や品詞の分類
語り口を構成する最小単位(元素)から文(言論)に至るまでの八つの部分を定義し、音韻や各品詞の特徴および定義について体系的な分類を提示している。
- §21.1-21.26
名詞の分類と比喩の種類および語尾の音韻規則
アリストテレスは名詞を単純名詞と複合名詞に分類し、比喩(メタファー)の四つの種類を含む八つの語の種類を定義する。さらに、詩的表現における比喩の適用規則や、男性・女性・中性名詞の音韻的な語尾の規則を論じている。
- §22.1-22.20
文体の徳と語彙の配合および悲劇論の結語
アリストテレスは詩における文体の徳が明瞭さと非日常性の調和にあるとし、通常語と外来語や比喩などの様々な語彙をいかに適切に配合すべきかを論じる。また、悲劇におけるこれまでの議論を締めくくる。
- §23.1-23.7
叙事詩の筋の統一性と歴史記述との相違
叙事詩のプロットは、歴史記述のような時間的・偶然的な出来事の羅列ではなく、悲劇と同様に始まり・中間・終わりを持つ「一つの完結した行為」を中心とすべきであり、ホメロスが戦争の全体ではなく一部のみを扱い挿話を交える手法で卓越していることを指摘する。
- §24.1-24.23
叙事詩の構成要素と規模および驚異と不合理の処理
叙事詩が悲劇と同じ種類と構成部分を持つべきこと、および叙事詩独自の長所である規模の拡大能力と英雄格の韻律の適合性について論じる。また、ホメロスの卓越性や、詩における驚異や不合理、虚偽の推論の扱い方について解説する。
- §25.1-25.16
詩に対する批判への解決と模倣の対象
詩における様々な批判(難問)とそれに対する解決方法が提示され、詩人が模倣すべき3つの対象(過去や現在の現実、風評や見解、あるべき姿)と、詩の正しさの独自の基準が論じられる。
- §25.17-25.32
詩への批判を言語表現によって解決する十二の方法
詩作における批判への十二通りの解決策として、メタファー、アクセント、句切り、多義性、言葉の慣用などの言語的手段を具体例と共に挙げる。最後に、批判の五つの分類と解決策の十二の分類を総括し論考をまとめる。
- §26.1-26.16
叙事詩と悲劇の優劣の比較と悲劇の優位性
叙事詩と悲劇のどちらの模倣がより優れているかという問題を提示し、悲劇に対する「俗悪である」という批判に対して反論を行う。その上で、構成、快感、統一性の観点から悲劇が叙事詩よりも優れていることを証明し、本著作全体の議論を締めくくる。
