アリストテレス · Aristotle
生成と消滅について
On Generation and Corruption
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底本
Aristotle. On Sophistical Refutations, On Coming to be and Passing Away, On the Cosmos. Forster, Edward Seymour, editor. London, Cambridge: William Heinmann Ltd., Harvard University Press, 1955.
原文データ出典
Open Greek and Latin · CC BY-SA 4.0
元ファイル: urn:cts:greekLit:tlg0086.tlg013.1st1K-grc1
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翻訳と校閲
翻訳:Gemini 3.5 Flash(2026-05-22 公開)
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最終更新:2026-10-10・変更履歴の一覧
要旨
アリストテレスによる本作は、自然界における「生成(genesis)」と「消滅(phthora)」の本質、およびそれらと質的変化や成長との違いを究明する自然学・哲学の論考です。著者はまず、先行する原子論者やプラトンの説を批判的に検証し、生成・消滅が単なる物質の結合・分離ではなく、実体そのものの変化であることを論じます。その上で、変化を可能にする前提として「接触」「能動と受動」「混合」といった物理的概念を厳密に定義します。後半では、温・冷・湿・乾という四つの基本性質の組み合わせから火・空気・水・土の四元素を導出し、それらが互いに変転する動的なプロセスを解明します。最終的に、地上の不断の生成消滅は、天体の円環運動という永遠の作用因によって駆動され、種としての必然的な循環を繰り返すという宇宙論的な結論へと導かれます。
目次
34 チャンク
引用方式:book.chapter
- §1.1#1
生成消滅と質的変化に関する先人の諸説
生成と消滅の本性について、それが質的変化と同一であるか別のものであるかをめぐる古代の哲学者たちの対立(一元論者と多元論者、エンペドクラレスとアナクサゴラスらの見解の違い)を提示する。
- §1.1#2
複数原理論の難点とエンペドクラレスの矛盾
複数原理論の前提からは質的変化を説明できないことを指摘し、エンペドクラレスの理論における自己矛盾(元素の不変性と一からの生成)と、原理としての「一」と「多」の先後関係を議論する。
- §1.2#1
端的な生成の探求と原子論および無限分割の難点
アリストテレスは端的な生成と消滅の探究を開始し、プラトンやデモクリトスなど先行する哲学者の説を批判的に比較する。物質を不可分な立体(原子)に還元する原子論の立場と、幾何学的な面に還元するプラトンの立場の違いを浮き彫りにし、さらに無限分割の仮定から生じる困難を提起する。
- §1.2#2
無限分割の誤謬と全体的変化としての生成
アリストテレスは物体の無限分割可能性が引き起こす不合理性を提示し、点同士は隣り合えないという本性から無限分割の欺瞞を暴き、生成・消滅の本質は単なる結合・分離ではなく、全体の質的・実体的変化であることを論じる。
- §1.3#1
端的な生成の可能性と非在からの生成という難問
端的な生成と消滅の可能性、および非在からの生成という難問を検討し、これを解決するために実体と属性の区別や質料的原因の役割を考察し始める。
- §1.3#2
生成の持続因と端的な生成消滅の基準
生成が絶え間なく続くのは「一方の消滅が他方の生成である」という連鎖的な変化によるものである。また、端的な生成・消滅と、相対的な生成・消滅の区別について、関係する質料の性質や感覚可能性、思惑と真理の相違から分析する。
- §1.3#3
質料と範疇の対立による生成の区別と基底
アリストテレスは、対立する二つの質料の性質や範疇の区別によって、端的な生成・消滅と限定的な生成・消滅の違いを整理する。さらに、すべての変化において非在と質料の関係がどのように機能し、生成が不断に続くのか、また元素における基底質料の同一性と相違性について論じる。
- §1.4
生成消滅と質的変化の区別と基底の持続
生成・消滅と質的変化(改変)の違いについて論じ、前者が感覚可能な基底が持続しない全体の変化であるのに対し、後者は基底が持続しながらその属性のみが変化するものであることを定義する。
- §1.5#1
成長と減少の特質およびその基底質料
アリストテレスは成長と減少を、生成や質的変化と対比し、その特徴が変化の対象だけでなく変化の仕方(場所の拡大縮小)にもあると論じる。さらに、成長の基底にある質料が非物体的で大きさを持たないものではなく、常に内在的かつ物体的でなければならない理由を検討する。
- §1.5#2
成長と減少の難点と成長の三つの固有特徴
アリストテレスは成長と減少を定義する上で生じるアポリアを提示し、特に「非物体的なもの」または「物体」による成長の不可能性を論じ、さらに、水から空気への変化などの生成と成長を区別した上で、成長に固有の3つの特徴(部分の肥大、外部物質の付加、主体の存続)を提示して、食物が成長する主体とどのように関係するのかを検討する。
- §1.5#3
形相と質料による成長の難点の解決と栄養との区別
アリストテレスは形相と質料の二重性を導入し、質料が流動的に入れ替わる一方で形相が維持されることで、成長のアポリアを解決する。また、成長が単なる生成ではなく「可能的な量」の付加によるものであることを明示し、栄養補給と成長の定義上の相違を明らかにする。
- §1.6
接触の定義と動者と被動者の関係
アリストテレスは元素や質料の探究に先立ち、接触、混合、作用・受容という前座概念を規定する必要性を説き、特に自然学的な接触の物理的条件と、動者と被動者における接触の非対称性を規定する。
- §1.7#1
作用と受容の条件と諸説の検討
作用と受容(能動と受動)の条件に関する先人たちの対立する説(似たもの同士は作用しないとする多数説と、似たもの同士のみが作用するとするデモクリトス説)を紹介し、それらが一面的であることを指摘する。そして、作用するものと受けるものは類においては同一だが、種においては対立していなければならないことを論じる。
- §1.7#2
能動と受動の類と対立性および第一の動因
作用するものと作用を受けるものの関係について、双方が同一の類に属しながら異なる種(対立物)であることで両者の説が統合されることを示し、また動因に無受動の第一原因と受動的な最終原因があることを説明して、このテーマを総括する。
- §1.8#1
孔の説とエレア派および原子論の検討
エンペドクレスなどの孔(ポロス)による作用・受動の説が紹介され、次いで、エレア派の一なる不動の存在論と、それに対抗して現れたレウキッポスおよびデモクリトスの原子論が比較・検討される。
- §1.8#2
不可分者説と孔による受動説への批判
レウキッポスとプラトンの不可分者説を比較し、不可分な立体が性質を持たざるを得ないことの矛盾や、孔を媒介とする受動・透視の理論の不合理性を指摘して、それらを批判する。
- §1.9
可能態と現実態による受動と分割可能性
アリストテレスは可能態と現実態の区分に基づき、事物がいたるところで作用を受け得ること、また合一した単一のものは受動しないことを論じる。さらに、事物の分割可能性が受動性と同等であることを示し、質的変化や成長を否定せざるを得なくなるデモクリトスらの分割説を批判する。
- §1.10#1
混合の定義と生成消滅や並置との区別
混合の定義とその可能性についての議論が開始される。混合が生成や消滅、あるいは単なる並置による結合とどのように区別されるべきかを、可能態と現実態の対比および同質部分(ホモイオメレース)の観点から検討する。
- §1.10#2
相互の能動と受動による真の混合の条件
アリストテレスは、能動と受動の観点から混合の物理的条件を論じ、同一の素材や対立関係を持つもの同士が能力の均等な状態で混ざり合うことで、中間的な性質を持つ新たな統一(混合)が生じることを説明する。また、錫と銅の不完全な結合を例にとりつつ、真の混合が性質変化を伴うものであることを規定する。
- §2.1
物体の元素と第一素材に関する諸説の検討
著者は前節までの議論(混合、接触、能動と受動、生成と消滅、性質変化)を総括し、物体の構成要素(いわゆる元素)についての考察を開始する。先行する一元論・多元論の検討を通じて、特にプラトンの『ティマイオス』における第一素材の議論の不十分さを批判し、自らの立場(分離不能だが対立性質の下底となる素材を第一原理とする説)を提示する。
- §2.2
第一の原理としての四つの触覚的性質
アリストテレスは物体の原理を触覚的な対立性質(温・冷・湿・乾)に求め、それ以外の感覚の対立はこれに関わらないと主張する。そして、他の様々な触覚的性質(硬軟、粘脆など)がすべてこの基本となる四つの対立性質に帰せられることを証明し、第一の原理がこれら四つであることを示す。
- §2.3
対立性質の組み合わせと四元素の導出
4つの対立する基本性質の組み合わせから、火・空気・水・土という4つの単純な物体(元素)が理にかなって導出されること、およびこれらに対する先行哲学者たちの諸説を論じ、各元素の本質的な混合度と支配的な一性質の割り当てを説明する。
- §2.4
四元素の相互変転とその移行機構
4つの元素が相互に変転するプロセスを分析し、共通の性質を共有する隣接する元素同士が一つの性質の変化により容易に移行する循環的なルートと、複数の性質を伴って困難に移行するルート、あるいは二つの元素の結合から他の二つの元素が生成する機構を明らかにする。
- §2.5#1
単一元素説の否定と四元素の必然性
自然な物体の物質(基質)について、それが単一の元素(空気や水など)や、元素間の中間物であり得ないことを論証し、四つの元素の存在が二つの対立関係とその組み合わせから必然的に導かれることを説明する。
- §2.5#2
端や中間の特定元素を原理とする説の否定
元素が互いに変化し合う以上、特定の元素が生成変化の端(極限)や中間に位置する唯一の原理となることは不可能であることを、直線的な無限後退の不可能性を交えて論証する。
- §2.6#1
エンペドクレスの元素不変説と比率の批判
エンペドクレスのような元素不変説における、元素同士の比較可能性(量や力の尺度)の矛盾を指摘し、また成長や、比率・本質に基づく自然な生成を説明できないことを批判する。
- §2.6#2
エンペドクレスの運動論と霊魂論への批判
アリストテレスは、エンペドクレスが事物の本性(比率)や善、および「愛」と「争い」による運動について一貫した説明を欠いていることを批判する。さらに、魂を元素やその混合物とみなす説が、魂の性質変化や認知状態を説明できないことを指摘する。
- §2.7
対立する性質の中間化による混合の成立
アリストテレスは混合物の生成について、元素が単に並置結合されているとするエンペドクレスの説と、単一の共通質料のみを仮定する説の困難を指摘し、対立する二性質が現実態と可能態の割合に応じて互いの超過分を損ない合うことで生じる「中間的な状態」としての混合の成立プロセスを詳述する。
- §2.8
混合物体があらゆる単純元素から構成される理由
すべての混合された物体が、土、水、空気、火というすべての単純な物体(元素)から構成されている物理的・宇宙論的な理由を説明する。さらに、生物の多重な栄養摂取や、最も形相的な元素である火が「養われる」という先人たちの知見を証拠として挙げる。
- §2.9
生成の原因としての質料・形相・作用因
アリストテレスは生成と消滅の原因として、天体などの永遠なるものと同様に、質料(可能態)、形相(本質)、そして第三の原理(作用因)が必要であることを論じる。そのうえで、プラトンの形相(イデア)原因説や唯物論的な質料(元素)原因説をそれぞれ批判する。
- §2.10#1
黄道運動による継続的な生成消滅とその周期
黄道に沿った二重の移動が地上の絶え間ない生成と消滅の原因であることを示し、天体の運行周期が地上物の寿命や生成消滅の規則性を決定していることを説明する。
- §2.10#2
生成消滅の永続性と円運動による時間の連続性
アリストテレスは、自然の最善志向に由来する連続的な生成・消滅が円運動の模倣や元素の相互転化によって維持され、物体の離散が防がれる仕組みを論じ、運動の連続性が時間の連続性の基礎であることを明らかにする。
- §2.11#1
生成における必然性と因果連鎖の条件
アリストテレスは生成における必然性と偶然性の違いを検討し、「存在するようになること」と「そうなる予定であること」を区別する。また、因果の連鎖における先なるものと後なるものの必然的関係、そして無限の連鎖と必然性の関係について論じる。
- §2.11#2
円環的生成における必然性と個体や種の回帰
生成の端的な必然性が成り立つのは、天体運動のような永遠で円環的な運動と生成においてのみであることを論じ、不滅な実体は個体(数)として同一のまま巡り戻るのに対し、消滅しうる地上の実体は種としてのみ巡り戻ることを説明する。
