アリストテレス · Aristotle
動物の発生について
Generation of Animals
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底本
Aristotle. Aristotelis Opera, Volume 1. Bekker, Immanuel, editor (Academia Regia Borussica). Berlin: Reimer, 1831. Transcribed by Humanitext from the page images.
原文データ出典
Humanitext Project · CC BY 4.0
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要旨
アリストテレスによる『動物発生論』は、動物の生殖と発生の仕組み、およびその原因を体系的に探求した自然学・哲学の著作である。本書は、発生における雄の役割(形相と運動の始原)と雌の役割(物質的素材)を明確に区分することから始まる。第一巻から第二巻にかけては、精液の本質や胚の形成、心臓をはじめとする諸器官の発生順序が、目的論的な観点から精緻に論じられる。続く第三巻では、鳥類や魚類の卵生、昆虫の変態、有殻類の自然発生など、多様な生物の生殖様式が観察事実に基づいて分類・分析される。第四巻では、雌雄の決定や親子への類似のメカニズム、および怪物の誕生といった発生の変異が扱われ、第五巻では、目の色、毛の性質、声の高低といった出生後の偶然的な身体的特徴が、物質的な必然性によって説明される。全体を通じて、自然が目的を追求する「目的因」と、物質的な制約による「必然性」という二つの原因が、生命の生成と多様性を解き明かす鍵として提示されている。
目次
93 チャンク
引用方式:book.chapter
- §1.1
発生に寄与する部分と多様な発生様式
動物の他の部分と四つの原因についての議論を終え、発生に寄与する部分と運動の原因の考察に入る。動物や植物の様々な発生様式(雌雄の結合によるものと、腐敗物からの自然発生)を説明し、なぜ自然が無限を避けて目的を追求するのかを論じる。
- §1.2
発生の原理としての雄と雌の定義と役割
アリストテレスは植物を別途議論することとし、動物の発生における「雄」と「雌」の原理を導入する。両者は定義(能力)および感覚(身体部分)によって区別され、特に生殖に関わる主要部分の重要性が去勢を例に示される。
- §1.3-1.4
睾丸と子宮の多様性と睾丸の目的
有血動物および無血動物における睾丸と子宮の配置や形状の多様性を説明し、雄の睾丸が交尾の欲求と射精速度を抑制・安定させるという目的のために存在するものであると論じる。
- §1.5-1.7
動物ごとの生殖器官の配置と交尾様式
四肢動物、鳥類、足のない動物、ハリネズミにおける生殖器官の配置と、その役割について解説する。特に、睾丸を持たない魚類や蛇類が素早く交尾を行う理由を、彼らの生態的特徴や呼吸、身体構造の点から説明する。
- §1.8-1.10
子宮の配置の多様性と卵生および胎生の様式
雌の生殖器(子宮)の位置に関する多様性と、卵の完成度(完成卵か未完成卵か)に応じた配置の合理性を説明し、さらに胎生動物の胎生様式の違いを述べる。
- §1.11-1.12
軟骨魚類の生殖と子宮・睾丸の内外配置の原因
軟骨魚類が体内でのみ卵生である原因と子宮の配置の二面性を論じる。続いて、子宮が常に内部にあり、精巣が動物によって内部または外部にある原因を、皮膚の硬さや交尾上の必要性から説明する。
- §1.13-1.14
排泄と生殖の経路の配置および無血動物の交尾
本節では、有血動物における生殖および排泄の経路の配置や固定の必要性、さらには無血動物(軟甲類など)の生殖器官の特徴と独特な交尾方式について論じられている。
- §1.15-1.16
軟体類の交尾法と昆虫類の発生様式
軟体類の交配方法、タコの触手の役割、および昆虫類の多様な発生様式(同種交配、腐敗物からの発生など)と雌雄の形態差を説明し、生殖器に関する総括を行う。
- §1.17
精液の性質と全身由来説を支持する論拠
雄と雌における精液および生殖への寄与の有無と性質についての問いが提起され、精液が体のすべての部分から由来するという説(パンゲネシス説)を支持する4つの論拠が紹介される。
- §1.18#1
全身由来説への反論とエンペドクレス説の難点
アリストテレスは精液が体全体から由来するという説を反論し、遺伝的類似性が全身由来の証拠にならないこと、同質部分と異質部分の構成関係、またエンペドクレスの説の難点を指摘する。
- §1.18#2
部分の性質と発生の過程による全身由来説の論駁
精液が全身から由来するという説に対し、同質部分と異質部分の性質の違い、生物の成長・発生プロセス、性別決定の要因、一回の交配による多数の発生などの観点から、その理論的破綻と矛盾を指摘して論駁する。
- §1.18#3
昆虫の交尾観察と発生原因による精液の検討
アリストテレスは昆虫の交尾の観察などから、精液が全身から流出するという説を批判し、精液の本性を明らかにするために、発生における原因(素材か始動因か)の分類を開始する。
- §1.18#4
有益な栄養の余剰物としての精液の本性
精液の本性が質料と形相のいずれに属するかを検討し、それが「融解物」ではなく「有益な栄養の最終段階の余剰物」であることを論証する。大型動物が小型動物に比べて寡産である事実などが、この説の証拠として提示される。
- §1.18#5
精液が有用な余剰物であることの諸現象による証明
精液が融解物ではなく最終段階の有用な栄養の余剰物であることを裏付けるために、余剰物の貯蔵場所や排出に伴う疲弊、肥満や年齢による精液の有無などの諸事実が論じられる。
- §1.19#1
最終栄養の余剰物としての精液と月経の本性
精液が血液性の最終栄養の余剰物であることを論じ、子が親に似る理由や精液が部分の「可能態」であることを説明した上で、雌の月経もまた熱の不足により生じる血液性の余剰物であり、雄の精液に相当するものであることを示す。
- §1.19#2
雌の精液不放出と発生の素材としての月経
雌が精液を放出しないことの証拠として、月経と身体的特徴、脂肪との関係、快感の有無に関わらない受胎などが論じられ、雌が発生に寄与するのは素材としての月経(余剰物)であることが結論づけられる。
- §1.20#1
雌の分泌物の非精液性と動物における月経の差異
アリストテレスは、雌が交尾時に放出する液体が精液ではないこと、および雌が本質的に「不妊の雄」であり月経血が発生の素材となることを論じ、各種動物における月経の有無とその原因を身体の乾燥度や解剖学的特徴から説明する。
- §1.20#2
質料としての月経と乳の凝固による発生の比喩
女性の身体的特徴と、月経が発生において物質(質料)の役割を果たすことの論証。雄と雌の役割の違いを、牛乳の凝固(牛乳とレンネットの関係)に喩えて説明する。
- §1.21
形相と運動の始原としての雄の役割と観察事実
本チャンクでは、雄が発生において物質的に寄与するのではなく、形相と運動の始原としてのみ作用することを論じる。その論拠として昆虫の交尾方法や、鳥類・卵生魚類における受精プロセスの観察事実が提示される。
- §1.22
雌の体内での発生と木工の比喩による雄の作用
発生プロセス全体が雌のなかで行われる理由を質料の観点から説明し、雄の役割を大工に、精液をその道具に例えながら、直接または間接的な作用の仕組みを解説する。
- §1.23
動植物における雌雄分化の違いと殻皮類の位置づけ
動物と植物における雌雄の区別のあり方の違いを論じ、植物は雌雄未分化で生殖機能のみを持つのに対し、動物は感覚という認識能力を持ち雌雄が区別されていること、そしてその中間に位置する殻皮類の特徴を説明している。
- §2.1#1
生成の目的原因と生殖様式による動物の分類
アリストテレスは、生命の永遠性が個体ではなく種を通じてのみ達成されるため動物の生成が必要であり、優越する形相(雄)が質料(雌)から区別されていることが最善であると説く。また、生殖方法(胎生、卵生、幼虫生)の違いと、動物の有血・無血や発達度に応じた分類について論じる。
- §2.1#2
動物の本性的な完全性と生殖様式の序列
無血動物(昆虫類)の生殖形態を論じ、生殖の区分が足の有無などの外的な歩行機関によるのではなく、生物の本性的な完全性(温度、湿度、土っぽさの度合いなど)に基づくものであることを説明する。さらに、自然が最も完全な生殖形態(体内での直接の胎生)から不完全な卵生へと、秩序正しく段階的に生殖方式を配置していることを示す。
- §2.1#3
昆虫の発生過程と胚における器官形成の順序
著者は冷たい本性の動物や昆虫の発生プロセス(蛹化など)を解説した後、発生が種子からどのように生じるか(形相の先行、器官形成の同時性か順次性か)という重要な哲学的・生理学的問いを提起する。
- §2.1#4
胚の運動伝達と心臓の最優先形成
アリストテレスは、胚の発生において外部の第一動者がからくりのように運動を伝達する仕組みを説明し、心臓などの成長の原理を持つ部分が最初に形成されることを論じる。
- §2.2
精液の物理的性質とプネウマと水の混合物
精液が排出された後に冷えて水のように液状化し凍らないという現象について、水と温かい空気(気、プネウマ)の混合物としての性質から合理的な説明を与え、クテシアスやヘロドトスの誤った主張を反論する。
- §2.3#1
胚における魂の獲得と外部から入るヌース
アリストテレスは胚における魂(栄養的・感覚的・理性的)の獲得時期と経路について問い、身体的活動を伴わない理性的魂(ヌース)のみが外部から入る神的なものであると論じます。
- §2.3#2
プネウマの熱と精液による胚の形成過程
精液に含まれるプネウマの熱的性質が天体の元素に比例する神的なものであることを明かし、精液が雌の余剰物に運動(心魂の原理)を与えることで胚が形成されるプロセスを説明する。
- §2.4#1
発生の完成度による分類と生殖に関わる分泌物
動物の発生段階の完成度による分類を述べた上で、人間などの完全な胎生動物における精液の分泌が他の余剰物と同様に自然に起こること、および雌における経血や白帯下の生理的要因とそれらが発生において果たす役割を論じる。
- §2.4#2
雌の物質提供と雄の形成原理による受胎
すべての雌において生殖の余剰物(経血)が生じるのは、雌が受胎のための物質を提供し、雄が形成原理(魂)を提供する役割を持つからであることを論じ、さらに精液や快感による液体の特性を分析する。
- §2.4#3
受胎の機序と心臓の最優先形成の必然性
雌の快感や子宮の吸引運動による受胎の機序、精液による経血の凝固プロセスを説明する。さらに、胚の発生においては生命活動の第一原理を担う心臓が最初に現実化して形成されるべきであることを論じ、外部が先に形成されるとするデモクリトスの説を論駁する。
- §2.4#4
胚の栄養摂取と霊魂による器官の分化
胚が心臓を原理として血管や臍を通じて母体から栄養を吸収し成長することを示し、身体の各部位の分化は同種引力によるものではなく、霊魂が熱冷を道具として可能的な物質(雌の余剰物)を形づくることによって生じる。植物では雌雄が同一であるが、分離した動物では雄が雌を必要とすることを論じる。
- §2.5
雄が感覚的霊魂をもたらす必然性と胚の発生
雌が独力で生殖を完遂できない理由は、動物を定義する感覚的霊魂が雄によって供給されるからであると論じ、胚の発生過程を自動機械や自然の折り返し走に例えて説明する。
- §2.6#1
部位の形成順序と目的論による発生の解明
胚の発生における内外、上下の部位の形成順序と、気息による区分が論じられる。また、目的、動因、道具という要素から器官の形成順序を導く目的論的な立場が示され、先行する自然学者たちの決定論的なアプローチが批判される。
- §2.6#2
原因の探求批判と熱冷による諸器官の形成
デモクリトスの「なぜ」に関する説を批判し、永遠のものにも原因と証明があることを示す。さらに、熱と冷による諸部位(心臓、血管、肉、骨、皮膚など)の生成が必然性と目的因の双方から説明されるべきであることを論じる。
- §2.6#3
器官形成の順序と目の発生および栄養の配分
胎児の器官形成における輪郭と色彩の順序、および目の発生における難問と脳の冷によるその発達を説明し、最良の栄養から高貴な器官が形成されるという自然の優れた家政について論じる。
- §2.6#4
余剰物による骨や毛の形成と歯の特異的成長
自然の余剰物から形成される骨、腱、毛、爪などの発生を説明し、特に骨と同じ性質を持ちながら生涯にわたり成長する歯の目的、発生上の特異性、および人間と他動物の出生時の歯の有無の違いを論じる。
- §2.7#1
へその緒による胎児の栄養摂取と異種交配の条件
胎生動物の胎児が、へその緒や子宮のコチュレドン(胎盤突起)を介してどのように栄養を摂取し成長するかを解説し、胎児が胎内で肉片を吸うという既存の学説を論駁するとともに、異種間での交尾・繁殖が可能になる身体的条件とその具体例を挙げている。
- §2.7#2
ラバの不妊性と雌雄の不妊原因の診断
異種交配による不妊の問題、特にラバの不妊性に焦点を当て、男女や動物の不妊の原因、および精液や身体の分泌通路を調べるためのテストと、生殖能力における目や脳の役割を説明している。
- §2.8#1
ラバの不妊原因に関する先行説への批判
著者(アリストテレス)は、ラバが不妊である原因に関するデモクリトスとエンペドクレスの物理的な学説を反駁し、続いて、固有の原理を欠いたあまりに普遍的で抽象的な論証を批判する。
- §2.8#2
馬とロバの性質に基づくラバの不妊原因
アリストテレスはラバの不妊の原因を、馬とロバの本来の性質(寒冷さや生殖器官の特徴、月経の有無)に基づいて物理的に説明し、雑種の世代における不妊の必然性や、不具の個体であるギノス等の発生について述べている。
- §3.1#1
卵生動物の発生と鳥類の卵の特徴および多産性
著者はラバの不妊に関する議論を終え、有血の卵生動物である鳥類や魚類の発生および卵の多様性を概説し、特に鳥類の無精卵の発生と、鳥の身体的特徴や品種が多産性に与える影響を論じる。
- §3.1#2
鳥類の産卵数と栄養消費および風卵の未完成性
チョウゲンボウやカッコウ、ハト等の産卵数と本性の関係、多産が生命力を消費し尽くす現象(樹木やライオンの例)を説明し、鳥や魚の風卵が雄なしでは未完成である原因、および交尾が卵の継続的成長を促すメカニズムを解説する。
- §3.1#3
風卵の成因と卵の白身および黄身の分離
風卵が交尾なしで発生する事実をウズラの興奮と産卵の例から証明し、卵における白身(熱く、霊魂の発生の原理となる部分)と黄身(地質で栄養となる部分)の二色分離の原因、および冷たく湿った魚類の卵が単色に留まる理由を説明する。
- §3.2#1
卵の尖端の発生原理と殻の形成および抱卵
卵の尖った部分に発生の原理があり、それが子宮への付着部および産卵時の方向を決定していることを説明する。また、胎児のへその緒に相当する構造が卵の殻の形成過程でどのように消失するか、および抱卵を通じた発生の仕組みを明らかにする。
- §3.2#2
卵の白身と黄身の役割および熱による性質の差異
アリストテレスは卵の白身と黄身の機能について論じ、一般やアルクマイオンの説とは異なり黄身こそが乳にあたる栄養であると指摘する。さらに、抱卵による温熱効果、卵の腐敗(風卵化)のメカニズム、そして黄身と白身の物理的な反転特性について解説する。
- §3.2#3
卵膜とへその緒の機能および胎生動物との対比
卵の内部における黄身と白身の熱に対する物理的・化学的性質の違いを説明し、その後、胚の発生過程におけるへその緒、卵黄膜、絨毛膜、そして卵殻の役割を、胎生動物の子宮や母親との関係と対比しつつ解き明かす。
- §3.3
軟骨魚類の体内外の生殖様式と胚発生の鳥類との比較
魚類、特に軟骨魚類と例外的なアンコウ(バトラコス)における卵生・胎生の仕組みについて論じ、魚類の卵からの胚の発生プロセスを鳥類のそれと比較・分析する。
- §3.4
不完全な卵を産む魚類の発生と多産の理由
体外に不完全な卵を産む大部分の魚類の発生について、その卵の成長が酵母の膨張に似て自己膨張的に速く進む理由と、子宮の制限に対抗して多産によって種の生存を図る自然の摂理を説明する。
- §3.5#1
魚類の卵生性と雌雄の存在に関する論証
魚類がすべて卵生であることの証拠、および魚類に雌雄の区別がないという説に対する反論を、器官の比較や卵の成長様式の違いに基づいて論じる。
- §3.5#2
魚類の受精と精液嚥下説への反駁
アリストテレスは、魚が精液を飲み込んで受胎するという俗説(ヘロドトス等の主張)を、雌雄の生殖器官の発達の同期性や、消化器系と生殖器系の解剖学的構造の違いを挙げて反駁し、魚類の体外受精の仕組みを説明する。
- §3.6
口による交配と出産および両性具有の俗説への反駁
カラスが口で交尾しイタチが口から出産するという俗説を、解剖学的構造や生態の観察に基づいて否定し、ハイエナやトログスが雌雄両性を持つという説も同様に誤解であることを解き明かす。
- §3.7
魚類における放卵放精の差異と雄の役割
魚類の発生(軟骨魚類と卵生魚類)における精液や卵の放出の違いの原因を説明し、鳥類の卵の形成プロセス(無精卵の受精や、卵白・卵黄の分化)と対比しつつ、雄の原理が果たす役割を論じる。
- §3.8
軟体類と軟甲類の交尾と産卵および生殖器
軟体類や軟甲類の交尾と産卵の生態を解説し、すべての魚類が雌であり交尾なしに産卵すると主張する説を退け、子宮の構造や胚の外部発達について述べている。
- §3.9
昆虫類の発生と幼虫の本性および変態の過程
陸生、鳥類、水生の動物の発生に関する議論を終え、昆虫の発生(卵と幼虫の本性的な違い、三段階の変態、栄養摂取の仕組み)について論じる。
- §3.10#1
ミツバチの特異な生殖機構と各階級の発生
ミツバチの発生に関する既存の多様な仮説を検討し、その矛盾を論駁する。その上で、ミツバチ(働きバチ)は交尾なしで雄バチを産む植物的な両性本性を持ち、指導者(王)が自分自身とミツバチを産むという独自の生殖機構を提案する。
- §3.10#2
ミツバチの階層的発生と観察を重視する探究法
蜜蜂の特異な発生様式(指導者、蜜蜂、雄蜂の間の階層関係)について解説し、理論と観察事実の関係における科学的方法論を論じる。
- §3.11#1
有殻類の中間的本性と元素比率および発生様式
昆虫の発生に関する議論を終え、有殻類の発生について議論を始める。有殻類は動物と植物の中間的な本性を持ち、その生息環境や多様な形態が土や水、空気、火といった元素の構成比率に深く関係していることを論じた上で、それらの発生方法を植物の様々な繁殖様式になぞらえて説明する。
- §3.11#2
自然発生の機序とプネウマによる有殻類の形成
アリストテレスは有殻類の発生プロセスが植物の脇芽や巣の形成と類似すること、自然発生一般が環境の熱とプネウマによる霊魂の起点の獲得によって生じること、そして有殻類の殻が土質成分の凝固により生じることを説明する。
- §3.11#3
土生動物の仮説と有殻類の自然発生の証拠
地の腸からのウナギの発生や、もし人間や四足獣が土生であった場合の発生形態について論じたのち、有殻類の成長様式、および有殻類が自然発生的に生じることを示す具体例や証拠を提示する。
- §4.1#1
雌雄の発生原因に関する諸学説の検討
アリストテレスは動物の雌雄の発生原因について、精液に最初から対立があるとする説(アナクサゴラス)と、子宮の冷熱が原因とする説(エンペドクレス)、および特定器官の種子の優勢によるとする説(デモクリトス)を比較し、冷熱説の矛盾を批判する。
- §4.1#2
先行する雌雄決定論の批判と生殖器の分化
アリストテレスは、エンペドクレスの肢体分裂説やデモクリトスの精液部位優勢説を批判し、生殖器の分化は血管の性質や動く原理などの全身的な変化に由来すると主張する。また、雌雄が子宮の左右の発生位置によって決定されるという学説も、解剖学的観察と論理的難点から駁する。
- §4.1#3
精液の成熟能力による雌雄の決定と睾丸説の批判
右または左の睾丸を縛ることや切除することが雌雄の決定に関与するという説を否定し、雌雄の第一原因は睾丸の有無ではなく、熱による精液の成熟能力の有無とそれに伴う器官の存在にあることを論じる。
- §4.1#4
熱による成熟の不全と雌の発生および器官の変容
アリストテレスは、熱による成熟(消化)能力の有無が発生を決定し、能動的原理が不足すると逆の極である雌が発生することを論じる。さらに、原理となる主要器官(心臓)の変化が全体に及ぼす影響を去勢の例で示し、精液の成熟度の違いが生殖器官の物理的差異をもたらすことを説明する。
- §4.2
熱の過不足による雌雄決定の実例と環境の影響
アリストテレスは熱の過不足が雌雄の誕生を左右する具体例(年齢、気候、月の満ち欠けなど)を挙げるとともに、生殖における熱と物質の均衡、土地や水が出産に与える影響を論じる。
- §4.3#1
遺伝的類似と性差および奇形を生じる運動の原因
親子や祖先への類似、性別の決定、そして怪物の誕生が、精液中の形成運動が優越するか、あるいは敗退・分解するかに基づく同一の原因によって説明される。
- §4.3#2
先祖返りと普遍的形態および過多による変容
支配する運動と衰退する運動の相互作用によって、子が両親や祖先に似るメカニズムや、その特徴が混濁して単純な「人間」になる仕組み、そして外的な反作用や物質の過多による形態変化(アスリートやサテュリアシス病の例)について説明し、本章の議論を締めくくっている。
- §4.3#3
先行学説の批判と奇形発生の機序
アリストテレスは、親や先祖への類似・非類似に関する先行研究者たちの諸説(全器官由来説や多種混合物説など)を批判的に検討し、さらに「怪物(奇形)」の発生原因について、運動の衰退と普遍的特徴(動物)の残存という自説の観点から説明する。
- §4.4#1
デモクリトス批判と奇形発生の質料的原因
デモクリトスの怪物発生説を批判し、怪物の原因を精液ではなく質料(多産な卵や胚の融合)に求める。また、怪物とは大抵の場合の自然の秩序に反するものであり、形相が質料を支配しきれないときに生じるものであると定義する。
- §4.4#2
部分の過剰と欠損および体躯の大きさと産子数
アリストテレスはブドウの変異の理由を説明し、動物における部分の過剰や欠損、内臓の奇形について論じた後、動物の体の大きさと一産・多産との相関関係、およびそれが蹄の分類ではなく体の大きさ自体に起因することを解説する。
- §4.4#3
多胎が生じる原因と子宮部位説の否定
アリストテレスは、多産な動物においてなぜ一つの巨大な個体ではなく複数の胚が生じるのかを、素材と精液の能力の限界や適度な割合から説明し、子宮の部位の多さが原因だとする説を解剖学的知見に基づき否定する。
- §4.4#4
人間の妊娠期間の不規則性と器官の異常や閉塞
人間の妊娠期間の不規則性と身体的特徴(一産と多産の二重性)を説明し、さらに自然に反して生じる過剰・欠損部分や奇形の発生原因、各種の器官閉塞などの病理的実例について論じている。
- §4.5#1
重胎のメカニズムと妊娠中の交尾
アリストテレスは重胎(重複妊娠)のメカニズムについて論じ、一産動物が重胎しない理由を胚の大きさと栄養資源(残余物)の消費から説明する。さらに、妊娠中に交尾を受け入れる人間と馬の特異な身体的条件や、不妊の雌が交尾を好む原因についても分析する。
- §4.5#2
排泄残余物の過剰とウサギにおける重胎の原因
月経と精液、性欲の生理学的関係を鳥類や人間の例を挙げて説明し、ウサギなどの多産で小柄な動物がなぜ長い時間の間隔をおいて重胎できるのかを、残余物の豊かさと毛深さの関連とともに論じる。
- §4.6#1
子の成熟度による差異と男女の発育速度の逆転
胎生動物が未成熟な子を産むか完全に発達した子を産むかの違いを、蹄や指の数、多産性などの身体的特徴から説明する。さらに、人間の雌雄における胎内での発育速度と出生後の成長速度の逆転現象について論じる。
- §4.6#2
妊娠中の不調と余剰物質および生活習慣の影響
アリストテレスは、女性が男性に比べて体が弱く冷たいために成長や発育のペースが異なることを説明し、さらに人間の妊娠期における母体の不調が、他の動物に比べて余剰物質(経血など)の排出量が多いためであること、および生活習慣(労働の有無)がそれに与える影響を論じる。
- §4.7
奇胎の発生と熱力不足による胚の未熟化
アリストテレスは、女性の妊娠において稀に発生する「モラ(奇胎)」と呼ばれる肉塊の異常発生について述べ、その原因が熱力の弱さによる胚の未熟化(生煮え状態)にあること、そして経血が過剰で子宮的疾患になりやすい人間女性に特有の現象であることを説明する。
- §4.8#1
胎生動物における乳の生成と乳房に集まる原因
乳が胎生動物に生じる必然的な原因を説明し、胎児の完成に伴う栄養残余物の変化と、乳が乳房に集まる身体構造上の理由について論じている。
- §4.8#2
乳が血液の成熟物であることと授乳期の栄養転換
下部に乳房を持つ動物の乳房の変化と人間における残余物の多さを説明し、乳が血液の成熟物であることをエンペドクレスへの批判を交えて示すとともに、授乳と妊娠の排他性、誕生時のへその緒から乳への栄養経路の移行を論じる。
- §4.9-4.10
頭位分娩の原因と妊娠期間を規定する諸要因
すべての動物において出生が頭から行われる物理的な原因を説明し、さらに各動物の妊娠期間が寿命ではなく胎児の大きさによって規定されること、およびそれらの周期が天体の運行と関連しつつも物質の不確定性により揺らぎを持つことを論じる。
- §5.1#1
動物の諸部分の付帯的差異とその必然的原因
動物の各部分で個体や類ごとに現れる偶然的な属性(目の色、声の高低など)が、目的因ではなく質料と運動による必然的因果に帰せられるべきであることを論じ、さらに発生初期における睡眠と覚醒の関係および胎児が眠り続ける理由について考察する。
- §5.1#2
睡眠時の感覚と目の色および視力の差異の原因
睡眠中の感覚や乳児の目の色の変化について説明し、目の色が個体や種によって異なる原因、および昼夜の視力の違いを眼球内の水分の量と透明性という観点から科学的に論じている。
- §5.1#3
眼疾患の原因と視力の鋭さの二つの側面
目の濁りや夜盲症の原因が水分の過不足や目の膜の性質にあることを説明し、さらに視力の「鋭さ」には遠くを見る能力と違いを識別する能力の二種類があり、それぞれ目の構造や位置によって決まることを論じている。
- §5.2
聴覚と嗅覚の鋭さの二側面と感覚器の構造
聴覚と嗅覚の鋭さにおける二つの性質(感覚対象の違いの識別と、遠隔の音や匂いの感知)とその身体的要因を説明する。感覚器の清澄さが前者を決定する一方、鼻孔や耳の長さなどの構造の違いが後者を左右すること、また人間やアザラシにおける感覚器の形態の適応を論じる。
- §5.3#1
毛の太さや長さの差異とその物理的原因
人間や他の動物の毛(またはその相当物)の性質(太さ、長さ、白髪、禿げなど)の年齢や種類による違いを説明し、皮膚の厚さや孔の密度、水分の性質(油性か水性か)が毛の太さや長さを決める物理的原因であることを論じる。
- §5.3#2
直毛と縮れ毛の成因と熱と冷による硬化
アリストテレスは毛が直毛や縮れ毛になる仕組みを熱と水分の相互作用から説明し、地域環境や野生状態、深海のウニなどの例を挙げて、熱と冷たさがそれぞれ異なる形で水分を蒸発させて硬化を引き起こす様子を分析する。
- §5.3#3
皮膚の硬化と禿頭の原因および落葉との比較
著者は老いによって皮膚が硬化し、熱と水分が失われていくメカニズムを説明し、さらに人間における禿げの現象を生殖・脳の冷たさ・年齢の周期と関連づけて論じ、他の動物や植物の落葉現象と対比している。
- §5.4
白髪が生じる原因と熱の欠乏による腐敗
毛の色の原因、特に人間の白髪(加齢および病気によるもの)のメカニズムを、熱の欠乏と水分の腐敗(カビや霜との比喩)によって説明し、こめかみから白髪になる理由を論じる。
- §5.5
他動物における白毛化の有無と腐敗による原因
他の動物において白髪化が生じない理由を脳の水分量や皮膚の性質の観点から説明し、白髪化が乾燥ではなく腐敗によって生じることの証拠を提示する。
- §5.6
動物の体色の分類と変色の原因
動物の体色の分類(単一色、全身一色、斑入り)を示し、発生段階における歪みや、水・熱などの要因による体色の変化パターン、さらには舌の色の対応関係、季節による変色、食性(雑食性)と斑入りになりやすさの相関について論じる。
- §5.7#1
声の高低と強弱の原因および牛の例外
声の高さ(高低)や大きさ(強弱)の違いが生じる原因について、動かす側の力と動かされる空気の量の関係から分析し、一般の動物とは異なる牛の例外(若い個体や雌の方が声が低いこと)の物理的メカニズムを説明する。
- §5.7#2
加齢や去勢が声の高低に及ぼす影響と原因
去勢や加齢が声の高さに与える生理学的な影響を、器官の緊張と弛緩、および「始原」の変化の観点から説明し、さらに周囲の温度や器官の柔軟性が声質に及ぼす効果について論じている。
- §5.8
歯の発生と生え変わりの目的因と必然性
歯の発生、脱落、再生のメカニズムについて、授乳や強制的な物理力を原因とするデモクリトスの学説を批判する。自然の目的因(より良きこと)と必然性(素材や道具)の両面から、前歯と臼歯の発生順序や脱落の有無の差異を説明する。
