底本
Juvenal. Juvenal and Persius. Ramsay, G. G., editor. London, New York: William Heinemann, G. P. Putnam's Sons, 1918.
原文データ出典
Perseus Digital Library · CC BY-SA (Perseus の利用条件による)
元ファイル: urn:cts:latinLit:phi1276.phi001.perseus-lat2
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要旨
古代ローマ帝政期の道徳的退廃と社会の不条理を鋭く批判する、全16歌からなるヘクサメトロス(長短六歩格)の風刺詩集です。詩人は、欺瞞や犯罪が横行する現実を前に「憤り(インディグナーティオー)」を抑えきれず風刺を執筆すると宣言します。前半では、異邦人の台頭に押されるローマ市民の貧困や、偽善的な道徳家、ドミティアヌス帝の愚行、そして結婚制度と女性の悪徳などが過激かつ具体的に描写されます。後半へ進むにつれてトーンはやや哲学的になり、富や権力を望む人間の欲望の虚しさを説き、「健全な身体に健全な精神」を願うべきだと主張します。身の程をわきまえた質素な生活や、内なる良心の重要性を描き、軍人の不条理な特権を告発する詩をもって本作は締めくくられます。
目次
50 チャンク
引用方式:poem.line
- §1.1-1.85
風刺詩を書く動機とローマ社会の腐敗
詩人は、中身のない神話詩が溢れる現状への不満を述べ、腐敗、不貞、密告、毒殺が横行するローマ社会の現実に直面して、風刺詩を書かずにはいられないという強い憤りを表明する。
- §1.86-1.171
社会の悪徳の極致と死者を風刺する決意
著者は、貪欲、ギャンブル、クライアンス制度の腐敗など、ローマ社会に蔓延する深刻な悪徳を告発する。そして、現存する権力者を直接告発することの危険性を認めつつ、すでに世を去った死者たちを対象に風刺を試みる決意を語る。
- §2.1-2.85
偽善的な道徳家たちとラロニアによる弾劾
著者は道徳家を気取りながら裏で放蕩にふける偽善者たちを激しく非難する。続いて女性のラロニアが男性たちの更なる不徳と不条理な二重基準を告発し、最後に著者は極薄のトガを着て弁論するクレティクスを嘲笑する。
- §2.86-2.170
女装の秘儀と同性婚による貴族の道徳的退廃
この箇所で著者は、かつて女性の参入が禁じられていたボナ・デアの秘儀に男性の変装者が関わっていること、およびローマの高貴な市民たちが同性婚や女々しい服装といった悪徳にふけっている状況を厳しく風刺し、征服された異邦人や死者たちの高潔な魂に比して現在のローマ人が著しく退廃していることを非難する。
- §3.1-3.80
ウンブリキウスのローマ退去と腐敗への告発
話者は、友人のウンブリキウスがローマを離れてクマエに移住することを支持しつつ、不道徳な者やギリシアなどの外国人がのさばる現在のローマの荒廃ぶりを嘆くウンブリキウスの言葉を紹介し始める。
- §3.81-3.160
ギリシア人のへつらいと貧しい市民の屈辱
ウンブリキウスは、ローマにおけるギリシア人の阿諛追従や道徳的頽廃を非難し、彼らが富裕層を独占している現状を嘆く。さらに、貧しいローマ市民が不当に侮辱され、劇場の騎士席から締め出されるなどの経済的な格差と精神的な苦痛を暴露する。
- §3.161-3.243
貧窮市民の高額な生活費と危険な住環境
貧しいローマ市民がいかに立身出世できず、生活費の高騰や不安全な住環境、騒音に悩まされているかを、地方の素朴な生活や富豪の優遇措置と対比しつつ描く。
- §3.244-3.322
ローマの街路の危険とウンブリキウスの旅立ち
ローマの街路における日中の大混雑と悲惨な事故、夜間の落下物や粗暴な酔っぱらい、強盗などの危険を具体的に描写し、ウンブリキウスは最後に詩人へ別れを告げて旅立つ。
- §4.1-4.77
クリスピヌスの贅沢と皇帝への巨大魚献上
クリスピヌスの分不相応な贅沢と高価な魚の購入を痛烈に批判し、続いてドミティアヌス帝に捧げられた巨大なイシビラメをめぐる出来事の端緒を描く。
- §4.78-4.154
巨大魚の料理法をめぐる宮廷の諮問会
ドミティアヌス帝の近臣たちが諮問会に招集され、それぞれの腐敗した品性が皮肉交じりに紹介される。巨大なイシビラメを料理するための大皿を急造する案が採用され、詩人は皇帝の残虐性と空虚な宮廷を風刺する。
- §5.1-5.89
居候の隷属性とウィッロの宴会における格差
詩人は、他人の施しに頼る隷属的な生活を恥じない居候トレビウスを厳しく批判し、パトロンのウィッロが催す食事会で、主人と居候たちとの間に設けられるワイン、杯、給仕、パン、料理の理不尽な格差を生々しく描写する。
- §5.90-5.173
宴席における料理の差別と寄食者の屈辱
主人と客に供される魚介類、キノコ、果物の極端な格差が描かれ、屈辱に耐えて夕食を待つ客たちの惨めさが暴露される。詩人は、このような扱いに甘んじる寄食者たちは、最終的に道化として扱われるにふさわしいと結論づける。
- §6.1-6.79
貞潔の消逝とポストゥムスへの婚姻の諫止
著者(ユウェナリス)は、黄金時代から鉄の時代にかけての貞潔の消失を語り、友人ポストゥムスに対して、現代の女性がいかに貞淑さを失っており、婚姻が愚行であるかを告発する。
- §6.80-6.158
エッピアとメッサリナの姦通と女性の情欲
元老院議員の妻エッピアが剣闘士と駆け落ちした醜聞や、皇妃メッサリナが夜な夜な売春宿に通った退廃を暴き、女性のあくなき情欲を非難する。さらに、持参金による名ばかりの貞潔や、美貌の衰えとともに捨てられる妻の実態、女性の法外な浪費癖を糾弾する。
- §6.159-6.232
完璧な妻の傲慢とギリシャ風の気取り
本セクションにおいて詩人は、どれほど完璧な女性であっても傲慢さゆえに夫を苦しめること、ギリシャ風の気取り、そして妻が夫に対して振るう絶対的な支配力と不貞を批判している。
- §6.233-6.308
母親の悪影響とローマの奢侈による道徳の退廃
姑が娘に夫を騙す策略を教える弊害や、女性が剣闘士の訓練や訴訟に没頭する風潮を批判する。さらに、ローマの道徳的退廃の根本原因は、かつての美徳であった貧困の喪失と、平和と富がもたらした外国からの奢侈にあると論じる。
- §6.309-6.388O
よき女神の密儀の冒涜と妻たちの放埓
ユウェナリスはローマの女性たちによる「よき女神」の祭礼の退廃ぶりや、彼女たちの激しい情欲、浪費癖、さらには身をやつして家に入り込む好色な男娼や変装した姦通者との不道徳な関係を告発し、道徳的崩壊を鋭く風刺している。
- §6.389O-6.429
見張りの抱き込みと不品行な女たちの諸相
このセグメントでは、家の中の見張りも誘惑に加担してしまう現実と、女性たちが不妊目的などで去勢された宦官を愛好する実態が描かれる。さらに、歌手などの音楽家に熱狂して神々を煩わせる女性、街中の噂話や誇大なデマを触れて回る女性、夜遅くに浴場に乗り込んで暴君のように振る舞う乱暴な女性など、ローマの様々な悪徳女性たちが痛烈に風刺される。
- §6.430-6.508
衒学的な妻の横暴と奴隷への残虐な仕打ち
作者は、文学や文法の知識を鼻にかけて夫を圧倒する衒学的な女性たちや、醜悪な厚化粧で情夫を迎え、一方で家庭内では些細な不満から奴隷を恐るべき残虐さで虐げる富裕な妻たちの横暴さを批判する。
- §6.509-6.587
異国の迷信や占星術に熱中する妻たち
夫の資産や生活を顧みず隣人のように振る舞うローマの女性たちが、キュベレー、イシス、ユダヤ教、占星術など、さまざまな異国の迷信や怪しげな預言者に傾倒し、大金を貢ぐ様子を滑稽に描き出している。
- §6.588-6.661
平民の占いと富裕層の女たちによる堕胎や毒殺
平民の女性たちがキルクスなどの大衆的な場所で占いに頼る様子を描写した後、富裕層の女性たちが堕胎や惚れ薬の乱用、子供や夫の毒殺といった恐るべき犯罪に手を染める冷酷な現実を、悲劇の事例と比較しながら告発する。
- §7.1-7.82
詩人の困窮と皇帝の庇護への期待
カイサル(皇帝)だけが文芸の唯一の保護者であり、詩人たちが貧困から卑しい職業に手を染める中、皇帝の寛大さだけが彼らの希望である。しかし、世間の富豪たちは詩を賞賛するのみで、詩作に必要な物資や精神的余裕を与えず、詩人は困窮を極めている。
- §7.83-7.162
歴史家や弁護士など学識者の報われない労苦
詩人のスタティウスが劇作を売って飢えをしのぐ現状を挙げ、文学や歴史学、さらには法廷での弁護士や修辞学の教師が、どれほど労力を費やしても十分な報酬を得られない社会の現実を風刺する。
- §7.163-7.243
修辞学と文法学の教師に対する過酷な要求と低報酬
修辞学や文法学の教師たちが直面する極めて不遇な労働環境と、それに見合わない驚くほど低い報酬の実態を明かす。さらに、親たちが教師に対して課す過酷な知識・道徳面の要求と、それに対する雀の涙ほどの謝礼を対比して批判する。
- §8.1-8.69
血統の虚しさと美徳こそが唯一の真の気高さであること
高貴な血統や祖先の勲績のみに依拠しながら、実際には放蕩で破廉恥な生活を送る没落貴族たちを痛烈に批判し、真の気高さは外面的な家系ではなく個人の美徳のみに宿ることを論じる。
- §8.70-8.135
ポンティクスへの訓戒と属州統治における廉潔さ
詩人はポンティクスに、祖先の名声に頼るのではなく自身が美徳を示すよう促す。また、属州総督としての公正な統治と廉潔さを強く勧告する。
- §8.136-8.205
放蕩にふけり舞台や闘技場に立つ貴族たちの堕落
高貴な血筋でありながら放蕩と不名誉な行為にふける貴族たち(ラテラヌス、ダマシップス等)や、民衆の道徳的退廃を糾弾し、皇帝ネロ自身が堕落している時代において貴族が喜劇や闘技場で醜態をさらす恥辱を描写する。
- §8.206-8.275
堕落した貴族と国家を救った平民出身の英雄たち
ユウェナリスは、貴族でありながら剣闘士として醜態を晒すグラックスや暴政を敷くネロを批判し、卑賤な出自でありながら国家を救ったキケロやマリウス、デキウス家らの偉業を対比させます。そして、高貴な家柄よりも個人の徳こそが真に価値あるものであると結論づけます。
- §9.1-9.77
ナエウォルスの零落と吝嗇なパトロンへの嘆き
詩人(あるいは語り手)が、かつての陽気さを失い困窮した姿で現れた男色家ナエボルスにその理由を問い、これに対してナエボルスが、富裕で吝嗇な加虐的パトロンのヴィロのもとで経験した性的労働の苦痛と悲惨な境遇を吐露し始める。
- §9.78-9.150
ナエウォルスの功績の主張と老後の困窮への不安
ナエウォルスは、自分が他人の家庭の危機を救い、子供を授けることで夫に多くの特権をもたらした功績を主張する。これに対し詩人は、富者の秘密は奴隷の口から洩れるものであり、正しく生きるべきだと諭すが、ナエウォルスは困窮する老後の不安とささやかな世俗的欲望を訴える。
- §10.1-10.74
富や権力を求める祈りの虚しさとセイアヌスの失脚
世人の欲望の空しさを風刺する『風刺詩』第10歌(通称「虚しき祈り」)の冒頭部分。富や権力、名声を追い求める人間たちの浅はかな祈りがかえって自らの破滅を招くことを、歴史的な逸話や哲学者デモクリトス、ヘラクレイトスの思想的対比、そして権力者セイアヌスの劇的な失脚を例に引きながら描き出す。
- §10.75-10.148
民衆の変心と雄弁や武勲の栄光の儚さ
セイアヌスの没落を機に、民衆の移り気な態度や権力・富の虚しさが批判され、続いてキケロやデモステネスといった偉大な雄弁家の悲劇的運命、さらには軍事的栄光の儚さが論じられます。
- §10.149-10.221
英雄たちの虚しい末路と長寿祈願の悲哀
ハンニバルやアレクサンドロス、クセルクセスといった歴史的英雄たちの虚しい末路を引き合いに出し、かつ、無病息災や長寿を願うことの愚かさを、老いによってもたらされる肉体と精神の凄惨な衰えを具体的に描写することによって論じる。
- §10.222-10.294
老衰と認知症の悲哀および長寿者の悲惨な末路
老化がもたらす肉体的・精神的な衰退と、ネストルやプリアモス、マリウス、ポンペイウスら歴史的・神話的な長寿者たちがたどった悲惨な末路を描写し、続いて美貌を求める母親たちの愚かな祈りへと論を進める。
- §10.295-10.366
美貌の危難と健全な身体に宿る健全な精神
美貌が若い息子にもたらす破滅的な危機と姦通の惨状を警告し、メサリナによる婚礼の強要とそれに応じる若者の悲劇的な二者択一を例に引く。その上で、神々への祈りは不確かな現世の富を求めるものではなく、「健全な身体に健全な精神」と美徳を願うものであるべきだと主張する。
- §11.1-11.68
分不相応な美食の破滅とペルシクスへの質素な晩餐の招き
本歌は、身の程を知らない放蕩な食生活がもたらす破滅を対比的に描き、ペルシクスを自身の質素な晩餐へ招待する。
- §11.69-11.138
農荘の質素な夕食の献立と先祖の素朴な美徳
筆者は田荘で採れた質素で新鮮な食材による夕食メニューを紹介し、ローマの先祖たちの質実剛健な暮らしを讃える。一方で、現代の富裕層が象牙のテーブルなど贅沢な調度品に執着し、質素なもてなしを軽蔑する姿勢を痛烈に批判する。
- §11.139-11.208
慎ましい給仕と詩の朗読による穏やかな晩餐
詩人は、豪華なもてなしをする富豪の不道徳な娯楽と自身の質素で上品なもてなしを対比し、ホメロスやウェルギリウスの朗読、そして都会の喧騒から離れた穏やかな休息に友人を招待する。
- §12.1-12.65
カトゥルスの生還を祝う犠牲祭と海難での財産遺棄
詩人は、嵐から九死に一生を得て帰還した友人カトゥルスを祝福するために犠牲祭を準備し、カトゥルスが船を救うために高価な衣類や名品、銀器といった財産を次々と海に投げ捨て、最終的にマストを切り倒して危難を乗り越えた顛末を語る。
- §12.66-12.130
カトゥルスの入港と遺産狩りたちの偽りの誓願
カトゥルスの船がオスティア港に無事到着した様子を活写し、詩人自身が友人の帰還を祝う質素な祭壇を準備する一方で、遺産目当てに病人のために過剰な誓願を立てる遺産狩りたちの欺瞞を痛烈に風刺する。
- §13.1-13.84
カルウィヌスへの慰めと良心の呵責
カルウィヌスに対し、預託金を横領された怒りと嘆きをなだめるため、悪行に対する内心の良心の呵責こそが最大の復讐であると説く。さらに、道徳が崩壊し誓いを破って平気で嘘をつく現代ローマの欺瞞を、かつての黄金時代の清廉さと対比させて風刺する。
- §13.85-13.166
偽誓を重ねる罪人の心理と世の重罪の普遍性
詩人は、無神論や遅れる神罰を盾にして偽誓を繰り返す罪人の傲慢さを暴く。そして、友人が被った損失は世にはびこる凶悪犯罪や普遍的な人間の苦難に比べれば極めて軽微なものにすぎないと諭す。
- §13.167-13.249
復讐心の空しさと良心の呵責による罰
ピグマイオスと鶴の戦いを例に、他国の奇妙な習慣も現地では普通であることを説き、復讐心に囚われる愚かさを論じる。さらに、外的な罰がなくとも、罪人は内なる良心の呵責と神罰の恐怖によって生涯苦しむことになり、最終的にはさらなる犯罪を重ねて破滅へと至ることを示す。
- §14.1-14.82
親の悪徳がもたらす悪影響と子供への教育
親がサイコロ遊びや大食、奴隷への虐待、密通などの悪徳を示すことで、子供がそれをいかに容易に模倣し、堕落していくかを論じる。また、子供の前での親の振る舞いの責任と、教育の重要性を強調する。
- §14.83-14.165
浪費と異教信仰の継承および強欲の植え付け
親の過剰な建築熱が息子に受け継がれて財産が失われる様子や、ユダヤ教的戒律への傾倒、そして親から子へと強制的に教え込まれる「強欲」という悪徳の様々な現れを指摘し、それが狂気であることを示す。
- §14.166-14.248
昔の素朴さと強欲教育が招く大罪の警告
かつての素朴で誇り高かったローマ人と現代の貪欲な父親を対比し、子供に強欲を叩き込む教育が、やがて親殺しなどの凄惨な大罪や自滅を招くことを生々しく警告する。
- §14.249-14.331
財産追求の狂気と自然が求める真の富の限度
親が子を急き立てる貪欲の狂気や、命がけで商業活動に勤しむ商人の愚行を他の精神狂気と対比させて描き、結局のところ必要な富の基準は自然や知恵が求める最小限のもので十分であることを説く。
- §15.1-15.87
エジプトの迷信とオンボスとテンテュラの人食い事件
エジプトの奇妙な動物崇拝やタブーを嘲笑しつつ、コプトス近郊の隣り合う二つの町、オンボスとテンテュラの間で起きた、悲劇をも凌駕する恐るべき人食い事件の顛末を語り始める。
- §15.88-15.174
飢餓による食人と同情心に見る人間の本性
極限状態の飢えによりやむを得ず食人に至った民族(ウァスコネス人など)の弁明されるべき例と、エジプト人の残虐極まりない自発的食人を対比しつつ、人間が本来持つ同情心や社会性の神聖な起源を説く。
- §16.1-16.60
軍人が享受する法的特権と平民に対する優位
軍人が享受する法的特権と恩恵に言及し、平民に対する軍人の圧倒的な優位と、軍人だけが享受する独特な相続権利を風刺的に描写する。
